前回に引き続き、出資額限度法人を活用した相続対策の事例を取り上げます。今回は、法人契約の生命保険の活用について見ていきましょう。

法人が各相続人から土地を買い上げ、公平に現金を分配

前回の続きです。クリニックは、ご長男が後継者に決まりました。しかし、出資持分が複数人に分散していることが春江さんには心配でした。クリニックの土地が出資者たちによって、バラバラに売り買いされてしまう恐れがあったからです。

 

何もかも、ご長男が相続すればよいのでしょうが、それではあまりにも納税額が高くなりすぎます。それに、他の兄弟に分け与える分割調整の資金も準備しきれそうにありません。

 

そこで、将来土地の問題から解放されるよう、理事長の相続発生時に、法人が各相続人から土地を買い上げる計画を立てました。法人が一括して買い上げてしまえば、法人の土地になりますから、個人の意思で売り買いされることはなくなります。

 

法定相続分通り相続したのち、それを法人が買い上げてくれるなら、それぞれに不公平なく現金が入りますから、相続人全員が納得でしょう。

 

しかも、「取得費加算の特例」が使えます。これは、申告期限から3年以内に売却された相続財産(契約が完了していれば、実際の引き渡しが期間外でも適用可)については、売却した資産に対応する相続税を、譲渡所得から控除できるというものです。

生命保険で「土地買い上げの資金」を調達

春江さんは、法人が各相続人から土地を買い上げるための資金を、あらかじめ土地の時価に合わせて法人の生命保険で準備しました。

 

その後、理事長がお亡くなりになりました。シミュレーション通り、土地売却によって子どもたちには現金が入ったことで、相続人たちの心に余裕が生まれました。長男を理事長にしたことについて、とやかく言う者もなく、家族関係は円満です。先を見据えた賢明な決断だったと、ご家族全員が春江さんに感謝をしています。

本連載は、2016年8月27日刊行の書籍『開業医の相続対策は「奥様」がやりましょう』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

芹澤 貴美子

幻冬舎メディアコンサルティング

開業医は、今、目の前にいる患者さんの命と健康を預かる、専門的な職業です。新しい医療技術のこと、新薬のことなど、たくさんの情報を常に仕入れていなくては務まりません。なかなかお金の知識を得るための時間はないのが現実…

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