前回は、クリニックを法人化するメリットを解説しました。今回は、開業医の妻が「メディカルサービス会社」を立ち上げた事例を紹介します。

医療系のサービスを事業目的とする「MS法人」を設立

Case2 メディカルサービス会社を立ち上げた、知世さん

 

「私、会社を設立することにしたわ」

 

電話がかかってきたのは、知世さん(仮名)が病気で子宮を切除した1年後のことです。彼女はメディカルサービスの会社(MS法人)を立ち上げました。

 

MS法人とは、医療系のサービスを事業目的とする株式会社などの法人のことです。メディカルサービス法人の略称で、法律上、「MS法人」という制度があるわけではありません。

 

医療法人の理事などと役員を兼務することの多いMS法人は、医療法に注意する必要があります。公益性が高い医療法人は、一般法人に比べ税率が低く設定されていますので、収益事業については法律で制限されているからです。

 

知世さんは、ご自身のこれまでの経験から、MS法人で介護事業を始めることにしました。とくに、がんを患っている方の気持ちに沿う医療サービスの在り方を、地域を巻き込んでよりよい方向に変えていくことを願っておられたのです。「がんを患っているからできない」ではなく、「患ったからこそわかる人の気持ち、患ったからこそ気づく社会の問題」を改善しようと声を上げ続けられました。

 

私は、この知世さんとの出会いがあったからこそ、自らも法人を立ち上げ、いくつもの事業を展開し、常に挑戦していく生き方を選ぶことができました。

 

現在、一人開業のFPで14社の生命保険会社を取り扱えているのは、日本で私だけだそうです。この本の執筆にあたることができたのも、知世さんの生き様をそばで見せていただいたからだと思っています。

 

「その人らしく、楽しく、ラクに生きられるように」

 

という知世さんの活動は、地域に浸透していきました。デイサービスができるよう、土地を貸してくださる方の申し出をいただいたことで、さらに拡がりました。

 

やがて2007年4月施行の第5次医療法改正で、医療法人の介護事業が認められるようになりました。知世さんはご自身が育ててきた介護事業を翌年、医療法人に移しました。

「医師でない子」に医療法人を継がせる体制を整備

知世さんご夫婦は、「人」をとても大切にされていました。それが子育てにも反映し、親の重力から子どもを解放し、その子らしく、持てる才能を伸ばしていったらいいと考えていました。

 

医師という命に直結する重い責任が課せられる仕事は、本人の覚悟なしで乗り切れる仕事ではないとのお考えから、必ずしも子どもたちが医師になることを望んではおられませんでした。

 

ご自分たちの夢の続きを子どもたちに負わせることが、どれだけ重い重圧になるかを、10代続いた医師家系だからこそ実感しておられたのでしょう。

 

しかし、クリニックが地域での存在感を増すにつれ、今は健康で通院していない人々の心にも「具合が悪くなったら、ここにクリニックがあるから大丈夫」という安心感が定着していきます。クリニックが地域の重要な社会資源として根づいている証拠です。

 

また、そこで働く人たちの家族の生活も支えていますから、おいそれと自分の都合で閉院することはできません。

 

ご夫婦はその事実にだんだんと気づき始め、事業を承継することの大切さをお考えになるようになりました。

 

医療法第46条の3第1項のただし書きに、「都道府県知事の認可を受けた場合は、一定の条件のもと、医師でない子も理事長に選出することができる」とあります。介護事業を始めていたことで、医師にならなかった子でも施設長として活躍できる舞台があり、何の引け目も感じることはありません。

 

知世さんはその後、がんを再発しました。亡くなる前日まで演奏会のステージに立たれ、自分らしく生涯を閉じられました。その生き様は、子どもたちだけでなく、私を含めて多くの方々に感銘を与えてくれました。

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2016年8月27日刊行の書籍『開業医の相続対策は「奥様」がやりましょう』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

芹澤 貴美子

幻冬舎メディアコンサルティング

開業医は、今、目の前にいる患者さんの命と健康を預かる、専門的な職業です。新しい医療技術のこと、新薬のことなど、たくさんの情報を常に仕入れていなくては務まりません。なかなかお金の知識を得るための時間はないのが現実…

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