「私たちの老後、どうなるの?」…崩れ始めた夫婦の生活
転機は、美代子さんの入院でした。
大きな病気ではありませんでしたが、検査と治療で医療費がかさみました。そのとき、美代子さんは久しぶりに夫婦の通帳を確認します。
「残高を見て、頭が真っ白になりました」
想像以上に、貯蓄が減っていたのです。由香さんへの援助は、数年間で数百万円規模になっていました。
さらに問題だったのは、“終わりが見えない”ことでした。由香さんは感謝していないわけではありません。しかし、親の援助が生活の一部として定着してしまっていたのです。
「今月だけお願い」
「来月には返すから」
その言葉が、何年も繰り返されていました。
美代子さんは初めて夫に強く言いました。
「私たちの老後、どうなるの?」
しかし正人さんは、娘を突き放せませんでした。
「今さら急に支援をやめたら、あの子が困るだろ」
その言葉に、美代子さんは涙が止まらなかったといいます。
「気づけば、“娘を支えること”だけで毎日が回っていたんです」
現在夫婦は、由香さんへの援助額を減らす方向で話し合いを進めています。ただ、長年続いた関係は簡単には変えられません。
「援助を減らすって、“娘を見捨てる”みたいで苦しいんです」
正人さんはそう話します。一方、美代子さんはこう漏らしました。
「娘の人生を支えているつもりだったけど、いつの間にか、私たち自身の生活が崩れていました」
親が子を心配する気持ちは、年齢を重ねても消えるものではありません。しかし、“支えること”と、“依存すること”の境界線は、ときに曖昧になります。
夫婦は今、その境界線を引き直そうとしています。それは決して、娘への愛情がなくなったからではありません。親子として、これ以上一緒に沈まないために必要な選択だったのです。
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