「注意したいのに、注意できない」年下管理職の葛藤
達也さん(仮名・49歳)は、メーカーの営業管理部門で課長を務めています。部下は8人。そのうちの一人、58歳の隆夫さん(仮名)は、達也さんが入社した頃から働くベテラン社員でした。
若手時代には、取引先への対応や社内手続きを教えてもらったこともあります。現在は役職定年を経て一般社員となり、達也さんの部下として勤務していました。
「隆夫さんには、私のほうが教わってきましたから」
達也さんは周囲にそう話し、敬意を崩さないよう心がけていました。
ところが、社内システムが更新されてから、隆夫さんの入力ミスが増えていきました。商品の納期を誤って登録したり、古い様式の見積書を取引先へ送ったりすることが続いたのです。
「次から気をつけていただければ大丈夫です」
達也さんは当初、遠回しに伝えていました。しかし、隆夫さんは「昔はこんな複雑な操作じゃなかった」と不満を口にするだけで、手順を確認しようとはしませんでした。
ある日、入力ミスによって取引先への納品が遅れました。達也さんは隆夫さんを会議室へ呼びました。
「この項目は、送信前に確認してもらえますか。前にも同じミスがありました」
すると隆夫さんは表情を曇らせました。
「随分きつい言い方をするな。最近、私にばかり厳しくないか?」
その言葉に、達也さんは動揺しました。
「そんなつもりはありません。ただ、業務上の確認として……」
隆夫さんは「最近は何でもパワハラになるからな」と言い残し、会議室を出ていきました。
それ以降、達也さんは指導するたびに言葉を選び過ぎるようになりました。具体的なミスを指摘せず、「できれば確認をお願いします」と曖昧に伝える。その結果、同じ誤りが再び起こりました。
厚生労働省『令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査』では、過去3年間にパワーハラスメントに関する相談があったと回答した企業は64.2%でした。職場でハラスメントへの意識が高まる一方、適正な指導まで避けてしまえば、業務上の問題が放置されるおそれもあります。
「注意するとパワハラと言われる。黙っていれば、またミスが起きる」
達也さんは、管理職としてどう振る舞えばよいのかわからなくなっていました。
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