「リーチとフリークエンシー」か「インパクトとストーリー」か
「驚き」は、認識転換を起こすための強力な着火剤です。ただし、どれだけ良質な驚きを設計できたとしても、それを世の中にどう届けるか、その「伝え方」を間違えると、一瞬、話題になるだけで終わってしまいます。
ここからは、認識転換のアイデアを「ただの思い付き」で終わらせず、現実の売上やブランド価値につなげていくための具体的な認識の伝え方を整理していきます。
その入口として、まず押さえておきたいのが、「広告」と「PR」の違いです。
どちらも商品やブランドの情報を伝える手段ですが、狙っているものがそもそも異なります。端的に言えば、広告は「リーチとフリークエンシー」を重視するコミュニケーションであり、PRは「インパクトとストーリー」を重視するコミュニケーションだといえます。
広告の役割は、できるだけ多くの人に、複数回、同じメッセージやイメージを届けることです。テレビCM、交通広告、デジタル広告などを組み合わせながら、統一されたコピーとビジュアルを繰り返し見せることで、「あの商品、あのブランドといえばこのイメージだよね」という記憶をつくっていきます。つまり、「リーチ(何人に届いたか)」と「フリークエンシー(何回届いたか)」を積み上げるのが広告の基本的な考え方です。
サントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」と歌手・矢沢永吉氏のキャンペーンは、その典型例だといえます。テレビCMや屋外広告で矢沢氏がジョッキを掲げ、「金曜日は、プレモル。」と問いかけるメッセージを何度も目にした人は多いと思います。
ここでの狙いは、「金曜日」「ご褒美」「ちょっと良いビール」といういくつかの要素と、「プレモル」のイメージを何度もセットで見せることで、頭の中に結びつきを刻み込むことにあります。広告は、こうした「象徴的なビジュアル」や「決まり文句」を大量に、反復して届けることで、ブランドの記憶をつくっていく手法です。
一方で、私たちがPRで実行しているのは、必ずしもたくさんの人に、何度も伝えることではありません。
PRの中心にあるのは、「一度見たら忘れない出来事」や「人に話したくなる文脈」をつくることです。露出量そのものよりも、「どんな場面で」「どんな人が」「どんな理由でその行動を取ったのか」を通じて、消費者に対して印象的なストーリーを残すことが重視されます。
トヨタのプリウスが環境配慮型の車として広く認識されるようになった要因の一つが、アカデミー賞授賞式にレオナルド・ディカプリオ氏がプリウスで乗りつけた出来事でした。従来、ハリウッドスターといえばリムジンや高級車で会場に現れる――それが多くの人にとっての「予定調和」でした。そこに、「環境に配慮した車をあえて選ぶトップスター」という意外性のある行動が加わったことで、「環境に配慮した生き方の象徴としてプリウスを選ぶ」という新しい認識が生まれました。
この出来事は、テレビCMのように何度も繰り返し見せられたわけではありません。それでも、多くの人の記憶に残ったのは、「誰が」「どんな場面で」「なぜその選択をしたのか」というストーリーに共感できたからです。ここにPRの本質があります。
PRは「語られるストーリーを通じて消費者の認識を変える手法」だと言い換えることもできるのです。
「驚き」は、まさにこのPRの起点となる要素です。予定調和を壊す驚きに、「どのような人が象徴として登場するのか」「どのような現象として広がっていくのか」「生活者がどう納得できるのか」というストーリーを重ねることで、単なる話題に終わらない認識転換が起こります。

