認識転換の効果はCEPとEvoked Setにあらわれる
驚き、象徴、現象、納得――これらの要素によって認識転換が成立したとしても、その商品やブランドが購買行動につながるかどうかは、もう一点理解を深めるべきポイントがあります。それが、「思い出されるかどうか」という問題です。
どれほど魅力的な価値をつくったとしても、実際の購買場面で候補に浮かばなければ、人は決してその商品を手に取りません。ここで必要になるのが、CEP(Category Entry Point/カテゴリー・エントリー・ポイント)という概念です。
CEPとは、消費者がある状況に直面したときに、特定の商品やブランドを思い出す“スイッチ”のことを指します。
「夜中に小腹が空いたとき」「暑さを感じたとき」「自分へのご褒美をあげたい気分のとき」――こうした瞬間に、人は無意識のうちに頭の中で「いま欲しいもの」を検索し始めます。そのとき最初に浮かんでくる商品群が、Evoked Set(想起集合)と呼ばれる候補リストであり、その検索の起点となるトリガーがCEPなのです。
どれほど品質が高くても、この想起のメカニズムに組み込まれていなければ、消費者の選択肢には入りません。
私たちは日々、膨大な選択のなかを生きていますが、その多くは綿密な比較を経て選んでいるわけではありません。「その瞬間に思い出したもののなかから選ぶ」というのが実態です。ゆえに、自社商品やブランドがどのタイミングで思い出されるのかを意図的に設計することは、マーケティングにおいて極めて戦略的な行為になります。
CEPには主に3つの型があります。
第1は「時間・状況型」です。これは「いつ・どんな状況で思い出されるか」に焦点を当てるもので、「夜中に少しおなかが空いたとき」「在宅勤務中に小休止したいとき」などが典型例です。ソーセージを夜食として訴求したり、コーヒーを集中のスイッチとして位置づけたりする場合、このタイプのCEPが機能しています。
第2は「感情型」です。人は感情によって購買行動が大きく左右されます。「自分にご褒美をあげたい」「頑張った一日の締めくくりに癒やされたい」「誰かを笑顔にしたい」――こうした感情の瞬間に結びつくCEPを設計できれば、購買意欲を高める導線が生まれます。アイスクリームやスパ体験、高級菓子などが代表的な例です。
第3は「機能・課題解決型」です。これは「どんな問題を解決したいときに思い出されるか」を軸に設計します。「汗がつらいとき」の日傘や制汗剤、「疲れた体を癒やしたいとき」の入浴剤やマッサージ機器などが該当します。このタイプのCEPは理性的な納得を後押ししやすく、購買理由の明確化につながるのが特徴です。
CEPを戦略的に設計する際に重要なのは、これら3つの型を組み合わせ、複数の“入口”を持たせることです。
同じ商品でも「夜のリラックスタイムに飲むハーブティー」という時間・状況型のCEPに加えて、「一日のストレスをリセットしたいとき」という感情型、「眠りの質を高めたいとき」という機能・課題解決型を設定すれば、想起される機会は格段に増えます。CEPの数が多いほど、ブランドが思い出される可能性は高まるのです。
また、CEPは単なる広告コピーの発想ではなく、「消費者の生活をどのようにとらえうるか」という戦略設計の問題です。言い換えれば、CEPを広げるとは、商品を通じて「どんな場面に寄り添えるか」「どんな気持ちに応えることができるか」「どんな課題を解決できるか」というブランドや商品にたどり着く導線の数を拡張する行為でもあります。
この視点が定着すれば、単なる商品の訴求にとどまらず、ブランドの存在意義そのものを生活者のなかに浸透させることが可能になります。

