(※写真はイメージです/PIXTA)

「遺産が多いなら、相続税を払っても十分財産は残るはず」――そう考える人は少なくありません。しかし実際には、多額の資産を持つ家庭でも、相続放棄や不動産売却に追い込まれるケースが存在します。背景にあるのは、日本特有ともいえる相続税制度と、“資産はあるのに現金がない”という深刻な問題です。近年では国会でも相続税負担の重さが議論されており、相続税はもはや一部の富裕層だけの問題ではなくなりつつあります。日本の相続税制度は、なぜこれほど重いと言われるのでしょうか。4月末に『トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か――税制が映し出すアメリカの真実』を刊行した奥村眞吾税理士が、日本の相続税制度が抱える構造的な問題点について解説します。

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「資産家なのに納税できない」が起きる背景

一般的には、「数十億円規模の資産があるなら、相続税も十分支払えるのではないか」と考えがちです。しかし、日本の相続税制度はそれほど単純ではありません。

 

仮に遺産の大半が現預金であれば、納税は比較的容易です。ところが実際には、不動産や非上場株式など、すぐに現金化できない資産が多くを占めるケースが少なくありません。

 

本来であれば、こうした資産を売却して納税資金を確保することになります。しかし、賃貸不動産や同族会社株式は買い手が簡単に見つからないことも多く、希望価格で売却できるとは限りません。

 

また、税務署が評価した金額で売却できるとは限らず、想定より大幅に安い価格でしか換金できないケースもあります。それによって「資産はあるのに納税資金が足りない」という事態が発生します。いわゆる「相続税破産」と呼ばれる問題です。

 

こうした事情から、相続人が「財産を引き継ぐよりも放棄したほうが現実的」と判断するケースもあるのです。

国会でも議論された「相続税の重さ」

相続税の負担の重さについて国会でも議論が行われています。

 

国会では、「高額な相続税によって不動産売却や相続放棄が発生している」「相続税は所得税との二重課税ではないか」といった指摘も出ています。

 

特に問題視されているのが、不動産の売却先です。納税資金を確保するために国内不動産を手放した結果、海外資本へ流出するケースもあるとされ、日本の資産承継や経済安全保障の観点からも議論が広がっています。

 

これまで相続税の減税や制度見直しは、「富裕層優遇」と批判されやすいテーマでした。しかし実際には、現在の相続税は一部の超富裕層だけの問題ではなくなりつつあります。

 

国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によれば、2024年の死亡者数は約161万人。そのうち約16万7,000人が相続税の課税対象となっています。

 

つまり、相続税は徐々に“大衆課税化”している側面があるのです。

 

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日本の相続税は世界的に見ても特殊

日本の相続税は、国際的に見ても非常に特徴的です。

 

たとえば米国では、約1,500万ドルまで相続税がかからず、夫婦であればその倍近い控除があります。さらに、配偶者への相続には原則として上限なく非課税措置が認められています。

 

一方、日本では、基礎控除を超えれば一般家庭でも相続税が発生する可能性があります。都市部では不動産価格の上昇もあり、「自宅と預金だけで課税対象になる」というケースも珍しくありません。

 

また、日本では非上場株式や不動産についても国が細かく評価額を定めています。路線価方式による土地評価などは海外にはあまり見られない制度であり、納税者側からは「実勢価格とかけ離れている」との不満も根強くあります。

 

さらに、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、マレーシアなど、相続税そのものが存在しない国もあります。シンガポールやイタリアなどは、富裕層誘致の観点から相続税を抑える政策を取っています。

生きている間も、亡くなった後も課税される日本

日本では、所得税・住民税で高い税率が課され、さらに亡くなった後には相続税が課されます。

 

こうした構造については、「すでに所得税を支払った財産に再び課税している」という“二重課税”論も以前から存在しています。

 

もちろん、所得再分配や格差是正という観点から相続税を支持する意見もあります。ただ、現在の制度が「資産承継を妨げるほど重い負担になっていないか」という議論は、今後さらに必要になるでしょう。

 

特に中小企業オーナーの場合、自社株への課税が事業承継を困難にし、結果として廃業や外部売却につながるケースもあります。

 

相続税は単なる「富裕層課税」の問題ではなく、日本経済や企業承継、さらには国内資産の流出にも関わるテーマになりつつあるのです。

 

 

奥村 眞吾
税理士法人奥村会計事務所
代表

 

 

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