「大丈夫」は本当だったのか…帰省して目にした現実
冷蔵庫の中はほとんど空で、入っていたのは賞味期限間近の豆腐と、数本のペットボトルの水だけ。食器棚には同じ種類のカップ麺が積み重なっていました。
リビングにはエアコンがあるにもかかわらず、電源は入っていませんでした。話を聞くと、電気代を気にして極力使わないようにしているといいます。
「“夏でも扇風機で大丈夫だから”と。でも、その日はかなり暑くて…」
さらに驚いたのは、通院の頻度が減っていたことでした。
「“最近は行ってない”と言われて。理由を聞いたら、“お金がもったいないから”って」
謙介さんは、その場でようやく気づきました。
「母は、“お金はいらない”わけじゃなくて、“もうこれ以上迷惑をかけたくない”と思っていたんだと」
高齢単身世帯の中には、経済的理由から医療機関の受診を控えるケースもあります。生活の制約が、健康面にも影響を及ぼす現実があります。
「仕送りを断ったのも、私に負担をかけたくなかったからなんでしょう。でもその結果、生活の質がここまで落ちてしまっていた」
その夜、謙介さんは母と向き合って話をしました。
「“遠慮しないでほしい”と伝えました。お金の問題だけじゃなくて、ちゃんと生活してほしいと」
春子さんはしばらく黙っていましたが、やがて小さくこう言ったといいます。
「自分のことは自分で何とかしないと、って思ってしまったの」
親にとって、子どもに頼ることは簡単ではありません。とくにこれまで家族を支えてきた立場であればなおさらです。
その後、謙介さんは仕送りを再開するだけでなく、定期的に帰省する頻度を増やしました。また地域包括支援センターに相談し、見守りや生活支援サービスの情報も集めたといいます。
「お金を渡すだけでは足りないんだと分かりました。生活の中身まで見ないと、本当の意味で支えていることにはならないんですね」
「お金はもういらない」という言葉の裏にあったのは、単なる遠慮ではなく、親としての意地と不安でした。離れて暮らす家族にとって、そのサインを見逃さないことの難しさと大切さが、あらためて問われています。
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