(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢期の家計は、本人たちの生活だけで完結するとは限りません。子どもとの同居や経済的支援が続くなかで、本来は老後のために使うはずの年金が、別の用途に充てられているケースもあります。家族だから助けたいという思いと、限られた収入の現実。そのあいだでバランスを崩し、生活が静かに立ち行かなくなることもあります。

「このままでは無理だ」…崩れ始めた家計と関係

転機となったのは、正一さんが通帳を見直したときでした。

 

「定期預金を一部崩したんですが、その減り方が想像以上だったんです。“このままじゃ持たない”と初めて実感しました」

 

貯蓄は、子どもたちの教育費や住宅の修繕費を経ても、老後に備えてある程度は残していたはずでした。しかし、同居が始まってからの数年で、想定以上に減っていたのです。

 

「正直に言うと、“娘を養うための年金になっている”と感じてしまって…」

 

そう口にしたとき、正一さんは自分でも驚いたといいます。本来であれば、夫婦の生活と将来のために使うはずの年金。それが、別の形で消えていく現実に、ようやく向き合った瞬間でした。

 

その後、夫婦は咲江さんと話し合いの場を持ちました。

 

「“このままでは生活が続けられない”と伝えました。強い言い方になってしまったかもしれません」

 

しかし、咲江さんの反応は予想外のものでした。

 

「“そんなに負担だと思ってたの?”と言われてしまって…。こちらの感覚と、向こうの認識がまったく違っていたんです」

 

長年、生活費について具体的な話をしてこなかったこともあり、親の負担がどれほどのものか、娘には十分に伝わっていなかったようでした。

 

話し合いの結果、咲江さんは短時間のアルバイトを始めることになりました。また、食費の一部を負担する形にし、家事も分担するルールを決めたといいます。

 

「正直、もっと早く話すべきでした。遠慮や気遣いが、かえって状況を悪くしていたんだと思います」

 

それでも、完全に問題が解決したわけではありません。

 

「将来の不安は消えません。もし自分たちに介護が必要になったら、このままで大丈夫なのか、とか」

 

高齢期の同居は、支え合いにもなりますが、バランスを崩せば双方にとって負担になります。「家族だから」という前提に甘えたままでは、問題は見えにくく、解決も遅れがちです。

 

「娘を責めたいわけではないんです。ただ、現実として、このままでは続かないということを、ちゃんと共有しないといけなかった」

 

崩壊は、ある日突然起きたわけではありません。見て見ぬふりをしてきた違和感が積み重なり、「家族だから」と先送りしてきた問題が、静かに生活を蝕んでいたのです。

 

 

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