「こういう老後を求めていたんじゃない」
次第に、体力的な疲れとともに、精神的・金銭的な負担も蓄積していきました。
「孫や娘夫婦のために使うお金が、驚くほど増えてしまって。食費は私たち夫婦で月7万円ぐらいだったんですが、10万円は当たり前。2倍になった月もありました。それだけじゃない、水道代も上がったし、買物に一緒に行くことも増えて……」
夫婦の年金は月24万円と一般的。娘一家の影響で増えたお金は「怖くて全部は計算できない」ほどだと、美代さんは溜息をつきました。
夫婦だけでゆっくり食事をする時間も、好きなときに外出する自由もありません。ある日、幸助さんはぽつりとこぼしました。
「俺たち、こんな老後を望んでたわけじゃないよな」
悩んだ末、夫婦が選んだのは、物理的な距離を取ること。長年住んできた戸建てを売却し、駅近のマンションへ住み替える決断をしたのです。
引っ越しの話は、すべて準備が整ったあとで娘に伝えました。
「最近、階段の上り下りもしんどくなってきたの。将来のことを考えて、小さめのマンションに移ることにしたわ。少し、ここからは遠いけど」
あくまで理由は“老後のため”。 孫のことも、負担のことも、あえて口にはしませんでした。
娘は「せっかく近くに住めたのに、困っちゃうな……でも、しょうがないね」と受け入れたといいます。

