(※写真はイメージです/PIXTA)

老後資金への不安が高まるなか、「とにかく貯めなければ」と考える人は少なくありません。実際、年金だけでは生活が成り立たない可能性が指摘されるなか、堅実に資産を築くことは重要な備えといえるでしょう。しかし、人生は約束されたものではありません。“いま”を我慢して準備万端の老後を迎えたのに、「後悔しかない」というケースも……。

「堅実は正義」と思っていたが……

ようやく会社員という役割を終えて、「これからは夫婦で好きなことを」と考え始めた矢先、妻の体調に異変が起きたのです。診断は重いものでした。そして、懸命な治療もむなしく、妻は帰らぬ人になりました。

 

あれから約1年。井本さんの資産残高は、ほとんど減っていません。もはや使う理由が、なくなってしまったからです。

 

「もっと早く、使えばよかった。元気なうちに、いろんなところに一緒に行けばよかった。倹約して堅実に生きて、資産を増やすことが正義だと思っていましたが、今じゃ破天荒でも、その時にやりたいことをやって生きてきた人のほうが、ずっと羨ましい」

 

静まり返った自宅で、井本さんはぽつりとつぶやきました。

「堅実」とはお金を使わないことではない

お金を貯める力は、人生を支える大切なスキルです。無駄を避け、将来に備える——それは決して間違いではありません。

 

ただ、どれだけ資産を築いたとしても、使うタイミングや、一緒に過ごすはずだった時間は、あとから取り戻すことはできません。

 

また、厚生労働省の「簡易生命表(令和6年)」によると、2024年の日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.13歳。「老後の時間はたくさんある」と思うのも当然かもしれませんが、実際には、いつまで生きられるかは人それぞれ。また、健康寿命は男性72.57歳、女性75.45歳。元気に人生を楽しめる時間は、寿命よりずっと短いのです。

 

井本さんの場合、「堅実」という意味を取り違えていた部分も見られます。本来の堅実さとは「将来への備え」と「いまの生活の充実」とのバランスを取ることです。

 

お金は、減らさないためだけにあるのではありません。使うべきときに、使うためにあるものです。その線引きを見誤らないことこそが、これからの時代に求められる「本当の堅実さ」なのかもしれません。

 

 

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