(※写真はイメージです/PIXTA)

収入が高ければ、老後資金も自然に貯まっているはず――そう考える人は少なくありません。けれど実際には、住宅費や教育費、親の介護、物価上昇などが長年積み重なり、家計の実態が見えにくくなっているケースもあります。特に夫婦のどちらかに家計管理を任せきりにしている家庭では、「気づいたときには遅かった」という事態も起こり得ます。

「妻を責めきれなかった」…見えていなかった老後の入り口

「教育費がかかるのは知っていました。でも、ここまでとは思っていなかった。親のことも、“大変だったんだろうな”と、そのとき初めて具体的に分かったんです」

 

伸一さんは、怒りより先に、自分が何も把握していなかったことへの戸惑いのほうが大きかったと振り返ります。

 

「通帳の残高を見てショックを受けたのは事実です。でも、じゃあ自分は何を見ていたんだ、という話でもあって」

 

妻は「子どもたちが独立すれば何とか立て直せると思っていた」「退職金が入るまで持ちこたえればと思っていた」と話しました。しかし、肝心の退職後の見通しは、夫婦のあいだでほとんど共有されていなかったのです。

 

総務省『家計調査(2025年)』によると、二人以上の世帯の消費支出は月31万4,001円です。現役世代でも支出水準は高く、住宅費や教育費、親支援が重なれば、収入が多くても貯蓄ペースが鈍るのは不自然ではありません。

 

その後伸一さん夫婦は、初めて家計表を一緒に作り直しました。退職金を前提に考えるのではなく、年金見込み額、住宅費、医療費、生活費を洗い出し、必要なら住み替えや働き方の見直しも検討することにしたといいます。

 

「定年前に分かっただけまだよかった、と思うしかないです」

 

安定した収入があっても、家計を見なければ老後の安心にはつながりません。足りなかったのは、残高の“ゼロ”ひとつだけではなかったのかもしれません。夫婦でお金の現実を共有する機会そのものが、長いあいだ欠けていたのです。

 

 

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