(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢夫婦世帯では、わずかなきっかけで生活が崩れてしまうことがあります。特に一方が体調を崩した場合、もう一方が支えきれず、深刻な事態に至るケースも少なくありません。子と親が離れて暮らしていると、その異変は突然、思いがけない形で知らされることもあります。

夫婦だけでは支えきれない…老老介護が抱える限界

母の入院後、健一さんは実家に残された父と向き合うことになりました。冷蔵庫の中には同じ惣菜がいくつも入っており、賞味期限切れの食品も目立ちました。洗面所には未開封の介護用品が置かれていましたが、父は「使い方がよく分からない」と言いました。

 

「父は弱音を吐かない人です。でも実際には、母を支えながら、自分の生活も回せなくなっていたんです」

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、要介護者等から見た主な介護者のうち同居者は45.9%で、その内訳は配偶者が22.9%、子が16.2%、子の配偶者が5.4%です。また、同居する主な介護者のうち、男性の75.0%、女性の76.5%は60歳以上で、いわゆる「老老介護」が相当数存在するとされています。

 

健一さんの両親も、まさにその一例でした。

 

「父にしてみれば、妻の世話をするのは当たり前だったんだと思います。でも、夜中に転倒して、自分ひとりでは起こせない。そんな場面が来たとき、もう夫婦だけで抱えられる段階じゃなかったんです」

 

退院後、母はしばらく自宅に戻ることが難しく、介護保険の申請を進めることになりました。地域包括支援センターに相談し、要介護認定の手続き、福祉用具の導入、訪問介護の利用を検討したといいます。

 

その後、健一さんは実家に通う回数を増やし、父にも家事支援サービスの利用を勧めるようになりました。父は当初、「他人を家に入れるのは落ち着かない」と難色を示しましたが、最近では「来てもらえる日は少し気が楽だ」と話すようになったそうです。

 

電話があった夜、健一さんが言葉を失ったのは、母が倒れていたからだけではありませんでした。父が必死に守ってきた“これまで通りの暮らし”が、静かに限界を迎えていたことを、ようやく理解したからです。

 

深夜の電話は、家族だけで抱えてきた老いと介護がもう見過ごせない段階に入ったことを知らせる、切実なサインだったのかもしれません。

 

 

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