90代の親に10.5億円のローンを組ませ、「合計約14億円」のマンション購入→相続税ゼロを狙った相続人の〈節税スキーム〉。最高裁で迎えた“驚きの結末”【税理士が相続財産の「時価」評価を解説】

90代の親に10.5億円のローンを組ませ、「合計約14億円」のマンション購入→相続税ゼロを狙った相続人の〈節税スキーム〉。最高裁で迎えた“驚きの結末”【税理士が相続財産の「時価」評価を解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

相続税の計算においては、財産の「時価」をどのように評価するかが重要です。しかし、所得税や法人税、消費税のように「取引相手が必ず存在する」税とは異なり、相続税は代金の授受がない無償取引です。そのため、どの価格を「時価」とみなすかについて客観的な基準がぶれやすく、紛争に発展しやすい税といえます。そこで今回は、実際の判例を取り上げながら、税理士が相続税における財産の「時価」評価の考え方と、裁判に発展しやすいポイントや実務上の注意点について解説します。

最高裁判所は、Bさんの訴えを認めず

吉田課長「裁判の結果はどうだったんですか?」

 

Bさんは、地裁・高裁ともに敗訴し、最後の望みは最高裁でした。しかし、その最高裁判決でも、下記6(2)のとおり税務署長による更正処分が適法と判断されました。

 

6.最高裁判決(令和4年4月19日)

(2)最高裁の判示(要約)

 

①課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、平等原則に違反するものとして違法というべきである。

 

②相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。

 

上記6(2)の判示には前提があります。それは、財産評価基本通達は法令ではなく、納税者を拘束する性質のものではないという点です。つまり、財産の「時価」は相続税法22条(前掲1(1))に基づいて判断されるべき、ということです。

 

吉田課長「ということは、不動産鑑定評価額が相続税評価額より高い場合、税務署長はその鑑定評価額で更正処分を行うということですか?」

 

いえ、そうではありません。土地については、公示価格の約80%が相続税評価額とされています。一方、不動産鑑定評価額は、理論的には公示価格に引き直した場合の時価に近い水準となるのが通常です。

 

したがって、鑑定評価額をそのまま用いて更正処分を行うと、評価の安全性を考慮して公表されている相続税評価額の意義が失われてしまいます。

 

このような理由から、特別な理由がない限り、不動産鑑定評価額を用いた更正処分は行われません。

 

最高裁は取引が「節税目的の不自然なスキーム」と判断

この点について最高裁が示したのが、前掲6(2)①の判示です。

 

まず最高裁は、特定の納税者だけを対象に不動産鑑定評価額をもとに課税することは許されないと明確に述べています。これは、不動産鑑定評価額が時価を上回っていなくても同様です。

 

税法の根底には「平等原則」があります。不動産鑑定評価額を用いる場合には、合理的な理由が必要だということです。

 

吉田課長「合理的な理由とは?」

 

最高裁は、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある」ことを合理的理由としています(前掲6(2)②)。

 

この判例においては、最高裁は次の事実を指摘しました。

 

(1)今回のスキームを行わなければ、相続税の課税価格は6億円を超えていた。

(2)しかし、マンションを購入したことにより課税対象額が基礎控除額以下になり、相続税がゼロになっている。

 

そして最高裁は、本件購入・借入は、近い将来の相続において相続税負担を減らす、または免れることを知り、これを期待して企画・実行したものといえると判断し、納税者の上告を退けたのです。

 

 

多田 雄司

税理士

 

 

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