(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の一人暮らしは年々増えており、住まいやお金の不安を一人で抱え込みやすい状況も広がっています。内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしの人は増加傾向にあり、総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の単身無職世帯の可処分所得は月11.8万円、消費支出は月14.8万円と、平均的に赤字構造です。小さな判断ミスが、暮らし全体を揺るがすこともあります。

高齢の一人暮らしで起きやすい“契約トラブル”

「浩一、どうしよう……私、取り返しがつかないことをしてしまったかもしれない」

 

夜11時を過ぎたころ、浩一さん(仮名・55歳)のスマートフォンが鳴りました。画面には母・和子さん(仮名・80歳)の名前。電話に出ると、母は泣き崩れ、言葉が途切れ途切れになっていたといいます。

 

「何があったの。今どこ?」

「家にいる……ごめんね、ごめんね……私、判を押しちゃったの」

 

浩一さんが急いで実家に向かうと、テーブルの上には複数の契約書と見積書が広げられていました。内容は、屋根工事、床下の補修、防湿シートの交換、シロアリ対策――。金額を合計すると、200万円を大きく超えていました。

 

和子さんの年金は月13万円ほど。持ち家で暮らしているものの、生活に余裕があるわけではありません。亡き夫とともに築いてきた預金を少しずつ取り崩しながら、なんとか一人でやってきたといいます。

 

「昼間、業者が来たの。『このままだと屋根が危ない』『床下もかなり傷んでいる』って写真を見せられて……今やらないと大変なことになるって」

 

さらに屋根の話にとどまらず、「ついでに床下も見たほうがいい」「湿気がひどい」「このままだと家が傷む」と次々に不安をあおられ、その場で追加契約を結んでしまったというのです。

 

「怖くなっちゃって……家がだめになったら住めなくなると思ったの」

「でも、なんでこんな大きな話を一人で決めたの」

「迷ったのよ。でも、“今日なら割引になる”って言われて……」

 

消費者庁『令和7年版消費者白書』によると、75~84歳や85歳以上では「屋根工事」「修理サービス」に関する消費生活相談件数が多く、高齢者では「訪問販売」や「訪問購入」に関する相談割合が高い傾向が示されています。住宅修理は、高齢者の契約トラブルで目立つ類型の一つです。

 

浩一さんは契約書の日付を見て、息をのみました。契約したのはその日の午後。和子さんは、不安に耐えきれず、夜になってようやく息子に電話したのでした。

 

「お母さん、まだ間に合うかもしれない」

「でも、工事の人は“もう材料を押さえた”って……キャンセルできないって……」

「それを今ここで信じちゃだめだよ」

 

和子さんは、昼間の出来事を何度も繰り返し話しました。業者は親切そうで、専門用語を並べながら、写真を見せ、「このまま放置すると雨漏りする」「近所でも工事している」と畳みかけてきたといいます。和子さんは、判断を急かされるうちに冷静さを失っていったのでした。

 

「情けないよね。80にもなって、こんなこと……」

「情けなくなんかないよ。相手が手慣れているんだから」

 

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