(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の一人暮らしは年々増えており、住まいやお金の不安を一人で抱え込みやすい状況も広がっています。内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしの人は増加傾向にあり、総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の単身無職世帯の可処分所得は月11.8万円、消費支出は月14.8万円と、平均的に赤字構造です。小さな判断ミスが、暮らし全体を揺るがすこともあります。

「取り返しがつかない」と思ったが… “まだ残されていた手段”

翌朝、浩一さんは契約書一式を持って消費生活センターに相談しました。消費者庁の特定商取引法ガイドでは、訪問販売で契約した場合、法定書面を受け取った日から8日以内であれば、書面または電磁的記録でクーリング・オフができるとされています。仮に事業者が「クーリング・オフはできない」などと不実告知や威迫をしていた場合は、期間経過後でも主張できる余地があります。

 

相談員からは、すぐにクーリング・オフ通知を出すこと、工事を始めさせないこと、今後は一人で業者対応をしないことを助言されたといいます。契約内容によっては、すでに着工していても支払い義務が当然に発生するわけではないケースがあると説明を受け、浩一さんはようやく少し息をつけたそうです。国民生活センターも、住宅修理の訪問販売では8日以内ならクーリング・オフでき、施工済みでも原状回復費用を消費者が負担する必要はないと案内しています。

 

ただ、問題は契約だけでは終わりませんでした。

 

「今回たまたま間に合ったとしても、また同じことが起きるかもしれない」

 

浩一さんはそう感じ、地域包括支援センターにも足を運びました。厚生労働省によると、地域包括支援センターは高齢者の総合相談や権利擁護、成年後見制度の活用促進などを担う機関です。高齢者の生活不安や消費者被害についても、関係機関につなぐ役割を持っています。

 

和子さんは、認知症と診断されているわけではありません。ただ、最近は物忘れが増え、強い口調で言われると断りきれなくなっていたといいます。

 

「私、自分ではまだしっかりしてるつもりだったの」

「そう思って当然だよ。でも、一人で全部判断するのはもう危ない場面もあるんだと思う」

 

その後、実家の固定電話は常時留守番設定にし、訪問業者にはその場で答えないこと、契約や大きな買い物は必ず息子に連絡することを親子で決めました。必要に応じて成年後見制度や日常生活自立支援事業も視野に入れながら、見守りの体制を整え始めたといいます。

 

「取り返しがつかないと思って電話したの」

 

数日後、和子さんはそう言って泣きました。

 

「でも、あの夜に話してくれてよかった」

 

高齢の親の暮らしを揺るがすのは、浪費や大きな借金だけではありません。家の修理、見慣れない契約書、断りきれない一言――そんな日常の延長にある出来事が、老後資金を一気に崩すこともあります。

 

「母はただ、不安につけ込まれただけなんです」

 

必要なのは責めることではなく、早く気づき、つなぎ、繰り返さない仕組みをつくることなのかもしれません。

 

 

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