穏やかに過ごすつもりが…定年翌日に崩れた老後設計
「これでようやく一息つけるな」
定年退職の日、佐々木さん(仮名・60歳)は同僚たちに囲まれ、笑顔でそう語っていました。
最終月の給与は月収65万円。退職金は約3,000万円。持ち家の住宅ローンもすでに完済しており、これからは年金を軸に、夫婦で穏やかな生活を送る——そんな未来を思い描いていました。
「旅行にも行きたいし、少しは趣味にも時間を使いたいな」
帰宅後、妻の真理子さん(仮名・58歳)と乾杯し、これまでの労をねぎらい合ったといいます。
ところがその翌日。朝食のあと、真理子さんが静かに切り出しました。
「話しておきたいことがあるの」
どこか緊張した表情でした。
「実は、ちょっとお金のことで……」
佐々木さんは軽く受け止めていたといいます。細かな家計の話だろう、と。しかし、次の言葉で空気が変わりました。
「借金があるの」
思わず聞き返します。
「……借金?」
真理子さんは、しばらく視線を落としたまま続けました。
「カードローンと、あと…消費者金融も少し」
その総額は、数百万円にのぼっていました。
「最初は生活費の足しにするつもりだったの。でも、気づいたら増えてしまって…」
佐々木さんは、言葉を失ったといいます。
「そんな話、今まで一度も聞いたことがなかった」
共働き時代、家計の管理は主に妻に任せていました。毎月の支出や貯蓄額も、大まかな数字しか把握していなかったといいます。
「ちゃんと貯まっていると思っていたんです。まさか借金があるなんて」
さらに話を聞くと、教育費や予想外の出費、収入減の時期をきっかけに借入が始まり、返済のために別の借入を重ねる状態になっていたことが分かりました。
「あなたに心配かけたくなかったの」
その言葉に、怒りと戸惑いが入り混じった感情が湧き上がります。
「これからどうするんだよ」
