定年後は一生「お手伝いさん」?卒婚を決意させた夫の一言
子どもたちも独立し、親を看取り、夫も定年を迎えたとき、Aさんが夫に期待したのは「対等なパートナーとしての休息」でした。「ようやく自分の負担も軽くなる」。そう思っていたのです。60歳で定年退職した夫の手元には退職金が入り、夫婦合算の年金は年間320万円(夫240万円、妻80万円)。のんびり暮らせる収入額でしょう。
しかし、現実は期待どおりにいきません。毎日家にいる夫。夫は現役時代、休日になるとAさんをお手伝いさんのように、「お茶をいれろ」「新聞を持ってこい」と命令ばかりしていました。買い物に行こうとすれば「どこへ行くんだ」「なにを買うんだ」と事細かに干渉される日々。そんなことを思い出しました。セカンドライフをのんびり好きなように過ごしているのは夫だけ。
「定年後は、毎日これが続くのか……。やっと介護が終わったのに……」
限界に達したAさんは、ある日告げました。
「あなたが家でのんびりするなら、私は外へ働きに出ます」
驚いた夫は、鼻で笑ってこう言い放ったのです。
「いままで養ってもらっていたのに、お前を雇ってくれるところなんてあるのか?」
この見下した一言が、Aさんの心を折りました。
「これからは、自分のことは自分でしましょう」
それは、長年の束縛からの卒業、すなわち「卒婚」の宣言でした。
「卒婚」だけでは収まらなかったワケ
Aさんの卒婚宣言に、夫は当初、なにをいいだしたのか理解できずにいました。卒婚とは、籍を入れたままお互いの生き方を尊重し、干渉せずに自立して過ごすこと。夫は、Aさんの言葉の意味を理解すると、笑いだしました。
「お前になにができるのか。お金は1円も渡さないぞ」
離婚届を出さずに自由を求める「卒婚」は、お互いの経済的・精神的な自立と尊重があって初めて成り立つものです。しかし、夫は金銭で妻を支配し続けようとしました。この見下したような態度に、Aさんの決意は固まります。彼女は家庭裁判所に離婚調停の申し立てをしたのです。
夫婦関係はこじれにこじれてしまい、修復不可能な状態に。結果として、Aさんは法的権利に基づき、退職金を含む資産の半分と、年金分割を獲得。現在は苦労の末、自らみつけた仕事に就き、自分らしいセカンドライフを謳歌しています。一方、家事をやったことのない夫を待っていたのは、荒れ放題の家と孤独でした。
厚生労働省の人口動態統計によると、2023年に離婚した夫婦の総数は18万3,808組。うち、同居期間20年以上の熟年離婚は3万9,812組と、全体の約22%を占めています(総数には同居期間不詳を含む)。
夫婦間の意識のギャップとして、退職直後から“みえていなかった亀裂”が表面化することにより、卒婚に至るケースは少なくありません。現役時代は夫が外で働いているために我慢できたことも、退職後に一日中家にいることで、お互いのギャップが“みえる亀裂”となって婚姻関係の終了に発展します。
働き方や家族の形がどれほど多様化しても、相手を尊重する「思いやり」が欠落した関係は、最後には破綻を迎えてしまうようです。
〈参考〉
厚生労働省:令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai23/dl/gaikyouR5.pdf
厚生労働省:「令和6年度雇用均等基本調査」結果を公表します
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r06/06.pdf
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
共同代表
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