「あなた、家にいるのに、いないのよね」年商9億円・38歳社長が湾岸タワマンで見失った“守るべきもの”。スマホを片時も手放せなかった男性が、妻子の家出で思い知った〈成功の代償〉

「あなた、家にいるのに、いないのよね」年商9億円・38歳社長が湾岸タワマンで見失った“守るべきもの”。スマホを片時も手放せなかった男性が、妻子の家出で思い知った〈成功の代償〉

「成功」の定義を売上や肩書きに置くとき、経営者の足元では静かに「時間」という資本が枯渇していきます。拡大を優先するあまり組織の仕組みづくりを後回しにすれば、そのしわ寄せはすべて経営者自身の人生――家族との時間や心身の健康――へと向けられることも。本記事では、高橋社長(仮名)の事例とともに、多忙を理由に設計を怠った代償と、経営者が真に手に入れるべき「自由」のための組織設計について、資産形成・経営アドバイザーの萩原峻大氏が解説します。※本記事で紹介する事例は、実際にあった出来事を基にしていますが、個別事案が特定されないようプライバシーに配慮し、登場人物や具体的な状況に一部変更を加えて再構成したものです。

「属人化」の代償

離職者が増えるたび、業務は特定の「残った優秀な人間」に再配分されました。これは合理的な判断にみえますが、実は再現性を奪う「設計放棄」です。組織から再現性を奪っていき、下記のような属人化が進みます。

 

・1人しかわからない業務が増える

・社長承認案件が増える

・意思決定の階層が曖昧になる

・マニュアルは後回しになる

 

このとき、本来社長がやるべきだったのは“地味な”構造改革でした。

 

・社長承認を半減させる

・1人しかわからない業務をゼロにする

・役職ごとの意思決定範囲を明文化する

・属人業務を週次で棚卸しする

 

しかし、これらは売上に直結せず、誰からも評価されません。高橋社長は、採用で穴を埋め続けることで、構造の欠陥から目を逸らし続けてしまったのです。

キーパーソンからの「退職のご相談メール」と、守るべきものの喪失

ある朝、会社の中枢を担うキーパーソンから「退職のご相談」というメールが届きました。複数部署を横断して全体を把握している唯一の人物。「正直、もう限界です」と告げられました。そして、彼がいなくなった瞬間、誰も全体像がわからなくなり、すべての判断が社長のもとへ戻ってくるように。

 

「どうしますか?」「決めてください」鳴りやまないチャットに追われ、帰宅は深夜。一時的なものだからと妻には伝えました。

 

ある夜、自宅の玄関を開けても、リビングの灯りは消えていました。冷蔵庫にはラップのかかった夕食。子ども部屋をそっと覗くと寝息が聞こえてきます。

 

翌朝、息子がぽつりといいました。「パパ、昨日もいなかったね。またお仕事?」その言葉は責めていません。だからこそ、刺さるのです。

 

埋め合わせをと、その日は妻と息子と一緒に公園に行くことにしました。しかし、スマホを手放せません。「ごめん、3分だけ」と電話に出ました。3分は1時間に……。「パパ、今日は公園で遊ぶっていったのに」息子の悲しそうな顔をみることが増えていきました。

 

夕飯の時間、スマホで会社の連絡に集中していて妻の声かけにうわの空で返事をしていると、やがていわれました。

 

「あなた、家にいるのに、いないよね」

 

数週間後、妻は息子を連れて実家へ帰りました。「経営者の大変さを理解していない」そんな考えが浮かんでしまった自分に、ぞっとしました。問題は社員でも妻でもなく、構造設計を放棄した自分自身にあったのです。

 

次ページ属人化の終着点

※本連載は萩原峻大氏による書き下ろしです。

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