母の日、娘伝いで明かされた父の本音
母の日の夕食。テーブルにはカーネーションが飾られ、いつもより少しだけ豪華な料理が並んでいました。娘がプレゼントを差し出し、妻(39歳)が少し照れながら「ありがとう」と笑う。どこにでもある、穏やかな家庭の風景でした。
しかし、小学2年生の娘の何気ない一言が食卓の空気を変えます。
「ママはなんでお仕事しないで家にいるの?」
石田社長(仮名/44歳)は、箸を止めました。
「それ、誰かがいってたの?」と妻が問うと、娘が答えます。「パパがいってた。ママは家にいるだけでなにもしてないって」。
妻の表情からは笑みが消えています。石田社長に悪気はありませんでした。しかし、妻にとっては自身の存在価値を全否定されたも同然でした。
経営者は本来言葉に敏感な人が多いでしょう。社員への一言、取引先への態度、銀行への返答。小さな言葉ひとつで組織や信用が揺らぐことを知っているからです。それにも関わらず、家庭だけは「いわなくてもわかる」という甘えが生じ、配慮を欠いた言葉を投げかけてしまう。石田社長もまさにそうでした。
娘は無邪気に話し続けます。「〇〇ちゃんのママはお仕事してるっていってたよ」
その夜、夫婦の会話は途切れました。この沈黙は、単なる夫婦喧嘩では終わらなかったのです。
「見えない仕事」への想像力の欠如
翌朝、妻はいつもどおり朝食を用意していましたが、漂う空気は重いものでした。
「昨日の話なんだけど」唐突に、妻が口を開きます。「私って、あなたにとって“なにもしてない人”なの?」。
石田社長は「いや、そういう意味じゃなくて……」と慌てて否定しましたが、本心ではどこかこう思っていたのです。
「実際に稼いでいるのは自分だ」
確かに、妻が長年担ってきた役割は目にみえにくいものでした。子どもの送り迎えや学校・塾とのやりとり、親族との関係構築、社長夫人としての周りとの付き合い……。
これらは家庭と会社を維持するために不可欠な役割でしたが、石田社長はそれを評価していなかったようです。初めてその重さを考えたものの、一度こじれた感情は簡単には修復できません。

