海外口座はどうやって「把握」されるのか
今回で7回目となる金融口座情報(CRS)の自動的情報交換では、日本は101ヵ国・地域から情報を受領した。一方、日本からは84ヵ国・地域へ32万8,034件、口座残高8兆1,000億円分の情報を提供している。
◆CRSとは何か
CRS(共通報告基準)は、各国の金融機関が「外国居住者」の口座情報を自国の税務当局に報告し、その情報を毎年、自動的に相手国へ送る仕組みだ。
たとえば、日本に住む人がシンガポールの銀行に口座を開けば、その銀行は「この人は日本の居住者だ」と把握し、自国の税務当局へ報告する。するとその情報が、日本の国税庁へ送られる。
つまり、海外に口座を開設した時点で、原則として、年次報告を通じて日本側に共有される仕組みになっている。
海外配当が把握された会社員のケース
ここで、実際に情報がどう使われるのかを見てみたい。
◆どこで問題が見つかったのか
会社員Aは日本在住。X国に証券口座を持ち、外国株式を保有していた。配当金も受け取っていたが、日本では確定申告をしていなかった。
この口座情報は、X国からのCRSデータに含まれていた。
CRSで送られてくる情報には、次のような項目がある。
●口座名義人の氏名・住所
●口座番号
●年末残高
●配当・利子などの年間受取額
つまり、単に「口座がある」という情報だけでなく、「どの程度の資産があり、いくら収益が出ているか」まで把握できるという。
事例では、国税庁は申告内容との突合(つきあわせ)を行い、その結果、「海外配当の申告がない」という不一致が判明したという。
◆資料がなくても確認できる
Aは口座の存在は認めたものの、「詳しい資料が手元にない」と説明した。国税庁は租税条約に基づき、X国税務当局へ取引明細の提供を要請。これを「要請に基づく情報交換」という。
実際に送られてきた取引明細から、
●配当額
●株式売却益
●取得価格
が確認され、最終的に正確な所得額が計算された。
◆実務上のポイント
ここで重要なのは次の点だ。
●口座の存在は自動的に把握される
●収益情報も共有される
●手元に資料がなくても、相手国から取得できる
「海外だから把握されない」という認識は、現状では当てはまりにくくなっている。
多国籍企業の利益も共有対象に
情報交換は個人だけの話ではない。
国別報告書(CbCR)の交換では、外国に最終親会社を持つ1,875グループ分を57ヵ国・地域から受領。一方、日本に最終親会社がある981グループ分を75ヵ国・地域に提供している。
CbCRでは、企業グループ全体の売上高、利益、従業員数、納付税額などが国別に整理される。これにより、「どこで利益を上げ、どこで税金を払っているか」が各国税務当局に共有される。
架空仕入が確認された国際照会事例
法人B社の事例は、情報交換の実務的な威力を示している。
◆どこに疑問があったのか
法人の事例を紹介したい。B社はY国法人H社から製品を仕入れたとして、多額の仕入費用を計上していた。費用が増えれば利益が減り、法人税も軽くなる。
しかし調査の過程で、次のような不自然な点が見つかった。
●契約書がない
●請求書が示されない
●多額の現金決済だという説明
通常の国際取引であれば、銀行送金記録や契約書が残るわけだが、実務的にみて不自然だったという。
◆相手国の帳簿で裏付ける
国税庁はY国税務当局に対し、H社の帳簿や契約書の写しを要請した。送られてきた総勘定元帳を確認すると、そこにB社への製品販売の記録はなかった。つまり、仕入取引自体が存在していなかった。
結果として、架空仕入が否認され、法人税が是正された。
◆なぜ確認できるのか
租税条約に基づく情報交換では、単なる要約情報ではなく、帳簿、契約書、取引明細といった一次資料の提供も可能だ。海外法人との取引であっても、「相手国の帳簿で裏を取る」ことができる体制が整っている。
世界規模で拡大する税務当局間の情報共有体制
令和6事務年度の実績は、制度が実際に機能していることを示している。
CRS受領件数:274万件超
口座残高:17兆7,000億円
要請に基づく情報交換:326件(前年度比124件増)
自発的情報交換:1,781件
情報は毎年、静かに、しかし確実に行き交っている。
かつては「国外は見えない」という感覚があった。しかし現在は、口座残高や収益、帳簿などの資料も要請があれば共有される場合がある。
国境を越えて共有される17兆円という数字の裏側には、国境をまたいで連携する税務当局の実務ネットワークがある。海外資産や国際取引をめぐる環境は、すでに大きく変わっているといえそうだ。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
\3月20日(金)-22日(日)限定配信/
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