「65歳まで雇うか」という問いは、すでに終わった
ほぼすべての企業が「65歳まで働ける」体制を整えた現在、「定年」という言葉そのものが、現場では少しずつ意味を変え始めている。かつて日本企業にとって65歳は、キャリアの終点として明確な区切りだった。しかし現在、多くの職場で起きているのは、制度を守るための高年齢者雇用ではなく、事業を維持するために経験を持つ人材を手放せなくなった結果としての高年齢者雇用と言えるだろう。
厚生労働省が公表した「令和7年高年齢者雇用状況等報告」は、こうした変化が一部企業に限られたものではなく、日本企業全体に広がりつつある構造的な転換であることを示している。
同報告によれば、65歳までの雇用確保措置を実施している企業は99.9%に達した。高年齢者雇用安定法への対応という意味では、日本企業は制度整備をほぼ完了した段階にあるといえる。すでに企業社会では、「65歳まで雇うかどうか」という問いそのものが、実務的な論点ではなくなっている。
制度対応が出そろい、企業は“次の判断”を迫られている
注目すべきは、その先の変化だろう。
厚生労働省の調査では、65歳までの雇用確保措置として継続雇用制度(再雇用)を採用する企業が依然として多数を占めている。一方で、「定年年齢を65歳に引き上げる」企業の割合も、ここ数年で着実に増加している。
現在、65歳まで働ける環境そのものは、企業のほぼすべてに広がっている。そのうえで、内訳を見ると、定年そのものを65歳へ引き上げる企業は約3割水準まで拡大している。
さらに、70歳までの就業機会確保措置は34.8%に達している。努力義務にとどまる制度が、すでに3社に1社の水準まで広がっている点は見逃せない。
こうした数字から浮かび上がるのは、単なる雇用延長ではない。定年制度そのものを見直し、高年齢者を前提とした人事制度へと移行し始めている企業が増えているという構造変化だ。
