(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業の事業承継では、後継者に経営権を集中させるための自社株対策が欠かせない。近年は事業承継税制の見直しなど税制改正が相次ぎ、「制度は整ってきた」と受け止める声も聞かれる。しかし、税制とは別の次元で、依然として見落とされがちなのが民法上の「遺留分」だ。生前贈与によって後継者に株式を集めたとしても、相続時に経営の安定を揺るがすリスクが残る場合がある。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

後継者に株式が集まらない現実

経営者が死亡すると相続が発生し、相続人間で遺産分割が行われる。この過程で、後継者以外の相続人が自社株を取得し、後継者が経営判断に必要な議決権を十分に確保できなくなるケースもみられる。

 

相続前に後継者へ自社株を生前贈与していたとしても、それだけで十分とは言い切れない。贈与された株式が「遺留分」の算定対象となる場合、ほかの相続人から金銭による請求を受ける可能性があるからだ。

税制改正でも変わらない「遺留分」の仕組み

近年の税制改正では、事業承継税制の要件見直しをはじめ、贈与や相続を巡る制度改正が続いている。ただし、自社株を巡る遺留分の問題そのものが、税制改正によって解消されたわけではない。

 

遺留分とは、配偶者や子、父母など一定の相続人に保障された最低限の取り分を指し、民法に基づく権利である。一般には、遺留分権利者全体の合計として、法定相続分の2分の1(相続人が直系尊属のみの場合は3分の1)が目安とされる。

 

遺留分の算定対象には、被相続人の死亡時の財産に加え、原則として相続開始前1年以内に行われた贈与財産も含まれる。自社株については、事業承継対策として早期に贈与されていた場合であっても、遺留分算定において考慮されるケースが少なくない。

 

その結果、後継者は「多くの財産を先に取得した」と評価され、相続後に調整を求められる立場に置かれることがある。

裁判例が示す、相続後に顕在化するリスク

遺留分を巡る問題は、実際に裁判に発展することもある。

 

最高裁平成27年2月19日判決では、非上場会社の株式評価を巡り、遺留分侵害額の算定が争点となった。

 

この事案では、被相続人が経営していた会社の株式が相続財産の大部分を占め、後継者がその株式を取得して事業を承継していた。一方で、ほかの相続人は、株式の評価額が過小であるとして遺留分侵害額請求を行った。

 

最高裁は、非上場株式の評価にあたっては、会社の規模や収益性、事業内容などを踏まえた実質的な価値判断が求められるとし、形式的な評価方法のみに依拠することには慎重な姿勢を示した。

 

この判断は、相続時の評価のあり方次第では、後継者が想定以上の金銭請求を受ける可能性があることを示唆していると言えよう。生前に自社株を集約していた場合であっても、相続後に遺留分を巡る調整が生じ得ることをうかがわせる。

自社株を遺留分から外す「民法特例」

こうした自社株分散リスクへの対応策として、経営承継円滑化法に基づく民法特例が設けられている。一定の要件を満たす中小企業では、生前贈与された自社株を遺留分の算定対象から除外することが可能となる。

 

主な要件として、次の点が挙げられる。

 

●会社が3年以上事業を継続していること

●経営者から後継者へ自社株の生前贈与が行われていること

●贈与株式と既存保有株式を合わせ、後継者が議決権の過半数を確保できること

 

これらを満たしたうえで、推定相続人全員との合意を取り交わし、その内容を経済産業大臣および家庭裁判所に届け出ると、当該株式については遺留分侵害額請求の対象から外れる。

株価上昇がもたらす想定外のリスク

注意すべき点として、贈与後に自社株の評価額が上昇するケースが想定される。遺留分侵害額は、原則として相続時点の財産価値を基準に算定されるため、業績の向上などにより株価が上がれば、後継者が過去に取得した株式についても「高い価値の財産を受け取った」と評価される可能性がある。その結果、想定していなかった規模の金銭請求を受ける事態につながることもある。

 

税制改正によって贈与や相続を巡る枠組みが整理されても、会社の成長による株価上昇そのものが、相続時の調整を難しくする要因となる場合がある。

評価額を固定できる制度も

こうしたリスクへの対応として、遺留分算定の基礎となる自社株の評価額を、あらかじめ贈与時点の価格で固定することができる仕組みも設けられている。

 

これは、経営承継円滑化法に基づく民法特例の1つで、後継者が生前贈与を受けた自社株について、将来の相続時に評価額が変動しても、遺留分算定に用いる価格を贈与時の評価額とすることを、推定相続人全員の合意により定める制度だ。

 

この特例を利用すれば、相続時点で会社の業績が伸び、株価が上昇していたとしても、その上昇分が遺留分侵害額の算定に直接反映されにくくなる。結果として、事業の成長が、後継者にとって相続トラブルの要因となる事態を抑制する効果が期待されている。

 

もっとも、この制度も自動的に適用されるものではなく、推定相続人全員の合意を前提として、経済産業大臣および家庭裁判所への届出が必要となる。合意形成の難しさや手続きの煩雑さから、実務上は十分に活用されていないとの指摘もあるようだ。

税制だけでは完結しない事業承継

事業承継は税制だけで完結する問題ではない。制度は整備されているものの、実務への浸透は必ずしも十分とは言えず、相続発生後に遺留分を巡る調整が必要となり、経営判断に影響を及ぼすケースもみられる。

 

税制改正の動向を踏まえつつ、民法上の遺留分リスクも視野に入れた対策を検討することが、後継者と企業を守るうえで重要になりそうだ。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

 

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相続税の「税務調査」の実態と対処法

 

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