(※写真はイメージです/PIXTA)

2026年、ミラノ・コルティナ冬季オリンピックが開催され、日本選手の活躍が連日報じられている。メダル獲得のニュースとともに注目を集めるのが、選手に支払われる「報奨金」だ。金メダルはいくら支払われるのか――大会期間中は、こうした話題が必ずと言っていいほど取り上げられる。しかし報奨金は、その全額が手取りになるとは限らない。日本では非課税となる報奨金がある一方、スポンサーや所属企業からの支給には課税されるケースも多い。さらに海外に目を向ければ、報奨金に対する税制の考え方は国によって大きく異なる。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

五輪メダルには「現金」が支給される

オリンピックでメダルを獲得すると、名誉だけでなく金銭的な報奨も与えられる。日本の場合、その中心となるのが日本オリンピック委員会(JOC)や日本パラスポーツ協会(JPSA)による報奨制度である。

 

現在の支給目安は以下の通りである。

 

【オリンピック(JOC)】

金:500万円

銀:200万円

銅:100万円

 

【パラリンピック(JPSA)】

金:300万円

銀:200万円

銅:100万円

 

もっとも、実際の収入はこれだけにとどまらない。競技団体、所属企業、スポンサー企業、自治体などから追加的な報奨金が支払われるケースも多く、報道される金額はその一部にすぎないことも珍しくない。

JOC報奨金はなぜ「非課税」なのか?

JOCやJPSAから支給される五輪・パラリンピックのメダル報奨金は、国家的顕彰としての性格が強いものとして整理されており、所得税法上は非課税所得として扱われている。

 

たとえば、オリンピックの金メダルに対するJOCの報奨金500万円は、所得税の計算対象には含まれず、原則としてそのまま手元に残ることになる。

 

この制度の背景には、1990年代に行われた社会的議論がある。五輪メダリストへの課税を巡り、「国家を代表して得た栄誉に課税すべきか」という問題が提起され、国家的顕彰としての性格が明確な報奨については非課税とする方向で政策的な整理が進められた。その結果として、現在の取り扱いが定着している。

 

一方、競技団体から支給される報奨金は、すべてが自動的に非課税になるわけではない。実務上は、JOCの報奨金額などを一つの目安としながら、顕彰としての性格が強い部分については、一定額まで非課税と整理されるケースが多い。ただし、支給の目的や性質によっては、その一部または全額が課税対象となることもある。

 

ここで重要なのは、これは「控除」によって税金を軽くする仕組みではないという点だ。一定額までは、そもそも所得として税金計算に含めない、という考え方に基づく取り扱いである。

 

さらに、スポンサー企業や所属企業などから支給される報奨金や報酬は、原則として所得税の課税対象となる。この場合、収入はいったん所得として計上されたうえで、必要経費や各種所得控除を差し引き、最終的な税額が計算される仕組みとなる。

 

JOC・JPSAの報奨金に対する非課税措置は、単なる税制上の優遇ではなく、日本のスポーツ政策の一環として位置付けられていると言えるだろう。

すべてが非課税ではない――報奨金は3種類に分かれる

五輪関連の報奨金は、税務実務上、次の3つに分類される。

 

① JOC・JPSA報奨金

国家的顕彰としての性格が強く、原則非課税である。

 

② 競技団体報奨金

公益性や顕彰性が強い場合には非課税となる余地があるが、性格によっては課税対象となる。

 

③ 企業・スポンサー報奨金

原則として課税対象である。所得区分は契約内容によって異なる。

 

重要なのは、税務上は「五輪かどうか」ではなく、「誰が、何の対価として支払ったか」で判断される点だ。

競技ごとに存在する報奨金格差

現実には、競技団体ごとに報奨金の水準は大きく異なる。スポンサーが多く、商業価値の高い競技では、金メダル獲得により数千万円規模の収入を得る選手もいる。一方で、競技人口やスポンサーが限られる競技では、報奨金が数百万円程度にとどまるケースも少なくない。

 

選手が実際に受け取れる金額は、

 

●競技の市場価値

●支給主体の違い

●税制上の取り扱い

 

という三層構造によって大きく左右されている。

海外比較…国が違えば税金の考え方も違う

海外に目を向けると、報奨金に対する税制の考え方は国ごとに大きく異なる。

 

アメリカでは、スポーツを職業活動と捉える考え方が強く、報奨金についても課税対象とする考え方がベースにある。一方で、2016年の法改正以降は、一定所得以下の選手について五輪報奨金やメダル価値を非課税とする措置が設けられている。

 

中国では、五輪メダルは国家的栄誉としての性格が極めて強く、報奨金についても軽課税、または実務上は非課税に近い取り扱いとなるケースが多いとされる。

 

シンガポールは世界最高水準の報奨金制度を有する一方、税務上は明確に課税対象と位置付けている。

 

こうした比較から見ると、日本は「報奨額は中位、税制は非課税寄り」という独自のバランスを取っている国だと言えよう。

スポンサー税務は「実務で最もトラブルが多い」領域

五輪報奨金を巡る税務の中で、実務上最もトラブルが多いのがスポンサー収入である。JOCの報奨金とは異なり、スポンサー企業から支払われる金銭は、原則として課税対象となる。

 

スポンサー収入の難しさは、所得区分が一律ではない点にある。継続的に広告出演やSNSでのプロモーション、ブランドアンバサダー活動を行っている場合、その活動は事業として認識され、事業所得と判断されることが多い。一方、単発の広告出演やキャンペーン参加にとどまる場合には、雑所得とされる可能性もある。

 

また、所属企業から支給される報奨金については、給与所得として扱われるのが一般的である。

 

問題となりやすいのは、これらの収入が同一年に混在するケースである。所得区分ごとに申告・計算方法が異なるため、税務処理は一気に複雑化するという。

海外スポンサー契約で、一気に「税務の難易度」が上がる

スポンサーが海外企業となると、税務の難易度はさらに高まる。租税条約、外国源泉課税、外国税額控除といった国際税務の論点が関係してくるからだ。

 

たとえば、海外で源泉徴収された税金については、日本の確定申告において外国税額控除の対象となる場合がある。ただし、控除を適用するためには、現地の源泉徴収票や課税証明書などの取得が必要となり、実務対応の難易度は一気に上がる。

 

また、租税条約の適用関係も重要となる。多くの条約では、スポーツ選手や芸能人について特則が設けられており、役務提供地国で課税できるとする条文構造が採られているケースが多い。その結果、日本居住者であっても、活動国側で課税が行われる可能性がある。

 

さらに注意すべき論点が、PE(恒久的施設)の問題である。一般に、PEは企業側の課税問題として整理されることが多いが、契約形態や活動実態によっては、選手側の所得区分や源泉徴収関係に影響を及ぼす可能性もある。

 

たとえば、

 

●選手が海外で長期間プロモーション活動を行う

●現地法人や代理店を通じて契約が行われる

●活動が単なる広告出演を超えてビジネス活動に近い形になる

 

といった場合、契約構造によっては税務上の整理が複雑化する可能性がある。

 

この分野は、契約設計・国際税務・源泉実務が交錯するため、専門家関与の有無によって税務リスクが大きく変わりやすい領域といえるだろう。

源泉徴収と確定申告の落とし穴

スポンサー税務で頻発するのが、企業側と選手側の双方による誤解である。企業が「報奨金だから非課税」と誤認して源泉徴収を行わず、選手側も「非課税だと思っていた」として申告を行わないケースがある。

 

しかし、税務当局は支給の名目ではなく、実態に基づいて課税判断を行う。その結果、後から所得税、住民税、さらには個人事業税がまとめて追徴される事例も少なくない。

契約書が税務を決める

スポンサー税務において最も重要なのが契約書である。支給が顕彰目的なのか、広告対価なのか、あるいは成果報酬なのかによって、税務上の取り扱いは大きく変わる。

 

顕彰的な支給と広告対価が混在する場合には、その内訳を契約書上で明確に区分しておくことが、税務リスクを抑えるうえで極めて重要となる。

揺れ続ける制度――今後の論点は?

近年、アスリートの収入構造はスポンサー収入を中心とする形へと変化している。その結果、報奨金とスポンサー収入の境界は曖昧になりつつあり、税制の在り方も見直し議論の対象となり続ける可能性がある。

 

特に、高額なスポンサー収入を得るトップ選手と、報奨金中心の選手との間で生じる税負担の公平性は、今後の重要な論点となるだろう。

 

メダルの価値は世界共通である。しかし、その成果をどのように評価し、どう扱うかは国家によって異なる。メダルを取っても、手取りは同じではない。そこには、スポーツと国家、そして税制が映し出す価値観の違いがあるのかもしれない。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

 

 \3月20日(金)-22日(日)限定配信/
 調査官は重加算税をかけたがる 
相続税の「税務調査」の実態と対処法

 

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