相続税額の算出はスピードが第一となるケースも
前回でお伝えした事業承継を考えているDさんの課題をふまえ、相続税を限りなくゼロに近づけ、かつ資産そのもので稼ぐことを目標とした実際の展開は次のとおりです。
①財産診断の実施
名寄帳(固定資産評価の一覧)、確定申告書、ローン返済表、案内図をDさんから預かり、財産診断を1週間で行いました。現地を確認するとともに財産目録を作成し、さらに相続税評価額の算出、相続財産ごとの収益性の分析、不良資産・優良資産の判断などをすぐ行ったのです。
②相続税の算出
相続税額も概算で算出しました。この段階では、正確性よりもスピードが大事です。結果は、総額で約1億3000万円、配偶者控除を満額使うと約6500万円になる見込みでした。現状のままでも一次相続は何とか手元の現金で納付できますが、二次相続では不足すると思われました。会社は順調で利益が蓄積していくので、将来、自社株の評価額が上がると一次相続の納税資金がショートする可能性もあります。
収益不動産を購入し、キャッシュフローを確保
③収益力向上と節税を兼ね備えた収益不動産の購入
収益力があり、しかも相続税の節税に効果のある収益不動産を探しました。たまたまリーマンショック後であり、市場には好条件の物件が多く、比較的スムーズに探せました。購入したのは、東京23区内にある3億円の賃貸マンションです。時価3億円ですが相続税評価額は1億円になり、2億円分、課税価格を下げたことになりました。
なお、法人(Dさんの会社)で購入することも考えましたが、自社株の評価がその時点では2億円に届かなかったので、課税価格の引き下げ効果を最大限活かすために個人で取得することにしました。また、法人で取得した場合、自社株の評価上、賃貸マンションが相続税評価額で評価されるのは取得から3年後のため(3年間は取得価額のままで評価)、その間に相続が起きた場合は節税になりません。これも個人で取得した理由です。
購入した賃貸マンションの賃料収入は年間2400万円、表面利回りは8%になります。支出は年間500万円なので、ネット利益が1900万円、実質利回りは6・3%。所得税等を差し引いた税引き後キャッシュフローも、この物件だけで500万円確保できました。たまたま時期がよく、優良不動産が取得できたことは幸運でした。
④対策の結果
相続税は総額で5700万円まで下がり、配偶者控除を適用すると2850万円となりました。これなら一次相続・二次相続ともに手持ちの現金で確実に払えそうです。それにも増して、年間500万円のキャッシュフローが生まれたことがよかったです。毎月ローンの元金が減っていくので、純資産は増えていきます。
こうして、相続が急に発生しても大丈夫になりました。Dさんは5年計画で自社株を毎年少しずつ、長男に贈与していくことにしています。経営者としての自覚を持ってもらうためと、Dさんが所有する自社株をあらかじめ減らすためです。
株式の移転は顧問税理士に頼むだけで特段、何の手間もかかりません。最近、長男も営業部長として業績を出し始めています。いずれタイミングを見計らって長男に社長の席を譲り、自分は会長になって見守ろうと思っています。そのときは会社でかけている保険を解約して、自身の退職金に充てる予定にしています。
Dさんのケースを見ると、圧倒的に相続税の節税効果が高いのは、不動産投資であることが分かります。収益性も確保でき、一石二鳥となった好例です。