「利回り」の種類、意味、使い方を理解しておく
不動産投資の判断において、利回りは重要な指標となります。しかし、利回りにはいろいろ種類があり、それぞれどういう意味があるのか、どれを使うのがよいのか、よく理解しておくべきです。
【図表】投資判断の材料になる指標
まず、「表面利回り」です。これは、年間収入を総投資額で割ったもので、最も単純な利回りです。専門家なら表面利回りだけで物件を決めることはありませんが、年間家賃を把握するには簡単なので、一義的に判断する指標としては有効でしょう。
次に、「ネット利回り(NOI利回り)」です。これは年間収入から諸経費を差し引き、総投資額で割ったもので、物件本来の収益力が分かります。ただ、将来のシミュレーションに使う場合、難しいのは支出の判断と空室率・家賃の想定です。
支出については、固定資産税、賃貸管理費、建物管理費、火災保険などの費用は比較的簡単に想定できますが、空室に伴う原状回復費用、広告費や修繕費は想定より多くかかることが多く、注意が必要です。ゼネコンやハウスメーカーの提案書の経費率をチェックすると、賃料収入に対して10%くらいになっているケースが多いようですが、実際には経費率が20〜30%ということも珍しくありません。
空室率の想定も、甘くなりがちです。最近は、退去が決まっても退去後リフォームが終了するまで募集は実質できないので、必ず入れ替わり時点の空室期間を見ておく必要があります。賃料も、都心の一部などを除き、デフレを完全に脱却するまでは甘い想定は危険です。
これらの不確定要素をどこまで厳密に見るかで、支出の見通しは大きく変わってきます。NOI利回りも当然変動します。中古物件を検討する場合、できれば3年前までのトラックレコード(実績記録)を売り主側から提供してもらえれば、判断しやすくなります。
NOI利回りの経費に減価償却費を加えたものがROI
私たちは、個別の投資判断に最も適切な利回りは「投下資本収益率(ROI)」だと思っています。
不動産投資の場合、NOI利回りの経費に減価償却費を加えたものです。会計上の営業利益率に相当するものです。なぜ減価償却費を加えるかといえば、時間の経過とともに建物の価値が目減りしているので、包括利益も減少していると見るからです。
例えば、1億円の木造アパートを建て、20年で減価償却し、建物が滅失したとすれば、年間500万円の包括利益が消えていることになります。金融商品でいえば、元本が目減りしている状態です。会計上の利益がマイナスになっていれば、その事業は赤字になっているということになります。よく建設会社やハウスメーカーの営業担当者が「税務上の赤字ですから心配いりません。キャッシュフローが黒字なので大丈夫です。これが節税効果です」と説明していますが、ロジックのすり替えでしかありません。
赤字は赤字でしかなく、そんな計画を実行してはいけません。少なくとも、減価償却費が年々減少していくことで、賃料収入が同じであっても所得税や住民税の負担は増えていくことの説明くらいはするべきでしょう。いずれにしろ、減価償却費も含めた損益で判断することが大切なのです。見せかけの収支計画より、実質上の損益計画が大切であると認識してください。
さらにいえば、相続対策であれ不動産投資であれ、資産全体の状況を判断するために最も重要なのが、「総資産利益率(ROA)」です。所有する資産総額に対するネット利益の利回りのことです。資産の中にはリスクをとって高い利回りのものもあれば、その逆もあります。自宅のようにリターンのない資産もあるでしょう。資産のトータルでどれだけの利回りがあるかが分からないと全体的な戦略が立てられません。相続対策や不動産投資の最終的な目標は、資産全体のROAを高めることなのです。
くどいようですが、不動産投資であれば土地と建物を同時に購入するのでROAの概念を理解しやすいのですが、土地の有効活用では建物の投資のみです。そして、建物の建築費に対する利回りで判断しがちなのですが、土地の有効活用の場合も「土地価格+建物価格」を分母として投資利回りを判断すべきです。