資産家は本能で「レバレッジの怖さ」を知っている
不動産投資といえば、レバレッジの効果がよく強調されます。いわゆる「てこの原理」です。自己資金は少なく、なるべくたくさんローンを引っ張って投資を行い、投資リターンを高めるというものです。自己資金が少なくても投資できるという点は確かに魅力的であり、なるべく多く借りたくなる気持ちもわからないではありません。
しかし、レバレッジは両刃の剣です。レバレッジをかけて投資した不動産が値上がりすれば大きなリターンが得られますが、逆に値下がりしたら自己資金を大きく減らしてしまいます。
FX(外国為替証拠金取引)では、日本でも以前は100倍のレバレッジをかけることができました。1ドル=100円のときに100倍のレバレッジをかけてドルを買うとしましょう(例えば、証拠金1万ドル=100万円でその100倍の100万ドル=1億円を買う)。このとき、為替が1円、円安に振れると(1ドル=101円)、100万ドルは1億100万円になって100万円儲かり、逆に1円、円高に振れると(1ドル=99円)、100万ドルは9900万円になって100万円の損、証拠金はゼロになります。今の時代、為替が1日で1円動くことなど珍しくありません。
不動産投資で全額ローンで物件を購入するのもこれと同じです。本当によい投資チャンスに恵まれたときなら思い切って全額ローンで投資するのもありでしょうが、通常はもっとレバレッジを抑えるべきです。
不動産投資におけるレバレッジについての目安としては、LTV(ローン・トゥー・バリュー)が代表的です。投資額に対して借入金の割合がどれくらいかを示すもので、通常は50%以内にしておくのがよいと思います。それくらいのレバレッジであれば、相場の急変にもある程度は対応できます。プロの不動産投資ファンドやリートでも、LTVは49%以下が一般的です。
【図表】LTV(ローン・トゥ・バリュー)とDSCR(負債支払い安全率)の計算法
不動産投資のレバレッジの目安としてはもうひとつ、DSCR(負債支払い安全率)という指標があります。年間のネット収入を年間のローン支払い(元利合計)で割り、返済額に対してどのくらいのネット収入があるか、その余裕度を見るものです。DSCRが2.0(ネット収入がローン支払いの2倍)なら理想的、1.5あれば優良、1.3なら可といったところです。
もちろん、物件が値上がりしているか値下がりしているか、他に保有している資産のDSCRはどれくらいかによって、適正DSCRは変わってきます。他の保有資産のDSCRが高ければ、ひとつの物件はDSCRが悪くても将来値上がりしそうなので投資するという判断もありでしょう。
DSCRが無限大になるのが無借金経営です。筆者は20年以上前から無借金経営を推奨してきました。賛同者も多く、資産家に共感していただいています。資産家の皆さんは本能的に逆レバレッジの怖さを感じているのだと思います。
無借金&インカムで消費を楽しむのであれば安心
無借金経営もしくは無借金経営に近い手法としては、定期借地権の設定、建設協力金による店舗建設、土地を売却してのアパート建設、借地と底地の交換、マンションデベロッパーとの等価交換などいろいろあります。
ローンの返済期間を10〜15年程度にし、さらに元金の減りが早い元金均等払いや繰り上げ返済により、なるべく早く無借金経営に持っていくのもよいでしょう。
その点、不動産投資で一番やってはいけないのが、入ってくる家賃が全部自分のものだと勘違いし、浪費癖で生活の支出が増えてしまうことです。実際の賃貸経営では、ローンの支払いや税金、修繕費などが想定以上にかかり、やがて資金繰りに苦労するケースをたくさん見てきました。無借金経営にして、インカムで消費を楽しむのであれば安心です。