(※写真はイメージです/PIXTA)

クレジットカードやQRコード決済といった「キャッシュレス決済」が当たり前になり、ここ数年は「出かけるときはスマホしか持たない」という人も多いだろう。この30年間で、デジタル化の波とともに貨幣経済は大きく姿を変えた。しかしその一方で、現金が排除されることで生じている深刻な不利益も見過ごせない。本記事では、ジェイ・L・ザゴースキー氏の著書『ザ・パワー・オブ・キャッシュ デジタル経済にこそ跳ね上がる現金の価値』(プレジデント社)より、キャッシュレス化の陰で見落とされてきた「現金の価値」とその必要性について紐解く。

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キャッシュレス推進のための「宣伝費」は年間1450億円以上

現金のメリットは、あまり発展していない国だろうが、超先進国だろうが、どの社会でも必ず必要とされる。

 

もっとも、今すぐ時計の針を戻し、あらゆる取引を現金で済ませていた時代に帰れなどと言うつもりは毛頭ない。電子決済一辺倒ではなく、現金も持ち歩いてはどうか。そのための理由を列挙し、皆さんに納得していただくことが目的なのだ。

 

キャッシュレス社会の推進派は、現金不要論を世に広めるために膨大な費用を投じている。2023年に米国の金融機関は、テレビ、ラジオ、インターネットでのクレジットカードの宣伝に、合わせて10億ドル(1ドル145円換算で1450億円)も使っている。

 

この金額には、クレジットカードを勧誘するダイレクトメール郵送費も、ショップのドアやレストランのメニュー、レジ前にクレジットカードのロゴマークを貼る費用も含まれていない。「楽々後払い」を謳う他のキャッシュレス決済方式やらデビットカードやら暗号通貨やらの宣伝広告費も入っていないので、実態はもっと大きな額になる。

 

この手の広告は驚くほど効果的だ。私は大学院の教壇に立ち、頭脳明晰な企業幹部やMBAの学生を指導しているが、その大多数がもう現金を持ち歩く気はないと口々に言う。

 

現金不要論を高らかに謳う宣伝に比べたら、現金の利点を絶賛する人々の声は囁きのようなものである。だが、たとえ囁きだろうが、真実ならば説得力はある。

 

実は、現金には、国家安全保障の確保から低所得層の生活支援に至るまで、多くの利点がある。現金が電子決済方式と確実に共存し続けられる体制づくりこそ、私の目標である。ひとたび現金が姿を消し、後になって失われたもののありがたみに気づいても、時すでに遅し。元に戻すのは困難を極め、とてつもない費用がかかるからだ。

クレジットカードの「ポイント」に隠された奇妙なカラクリ

ところで、私が現金のよさを絶賛するのは、なぜか。ひょっとしたら、現金決済を信奉する急先鋒と思っている読者もいるかもしれない。

 

実は、世の中の多くの方々と同様、私自身も現金に見切りをつけ、電子決済方式を長らく使ってきたくちなのだ。

 

「無料」でついてくるクレジットカードの特典に魅了され、できる限りポイントを獲得しようとあらゆる手を尽くしたものだ。チョコレート菓子1つ買うのにも、クレジットカードで払うほどの人間だったのである。そうやっているうちにポイントがたまってくる。

 

大学の教員には、数年おきに文字どおりの長期休暇が与えられる。せっかくのチャンスとばかりに、せっせとため込んだポイントだけでビジネスクラスの航空券を発券し、夫婦で世界一周とまではいかないが、4分の3くらいをカバーする豪勢な旅を楽しんだこともある。無料で海外旅行の機会が得られるのなら、現金と決別するのも悪くないと思われるかもしれない。

 

そうでもないのだ。「タダより高いものはない」とはよく言ったものである。企業は慈善事業ではない。「無料」で提供してくれるものがあるなら、客は別の形で代金を取られているのである。

 

ポイントカードは確かに魅力的だ。だが、入念に分析してみると、どうも様子がおかしい。悪政の権力者から盗んだカネを貧しい人々に分け与えたのはロビン・フッドだったが、こちらはどう見ても“逆ロビン・フッド”と言うべき構図なのだ。

 

金融知識の乏しい人々(主に低所得層)から巻き上げたカネを、金融知識の豊富な人々(主に高所得層)に分け与えているのだ。

 

次ページ「クレカ決済」をすればするほど店が苦しいワケ

※本連載は、ジェイ・L・ザゴースキー氏著、斎藤栄一郎訳による書籍『ザ・パワー・オブ・キャッシュ デジタル経済にこそ跳ね上がる現金の価値』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

ザ・パワー・オブ・キャッシュ デジタル経済にこそ跳ね上がる現金の価値

ザ・パワー・オブ・キャッシュ デジタル経済にこそ跳ね上がる現金の価値

ジェイ・L・ザゴースキー,斎藤 栄一郎

プレジデント社

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