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承認ログ、監視カメラ…複数の証拠が暴いた「不正送金」の実態
その後第三者を入れて調査が進むにつれ、疑いは確信に変わっていきます。
社内ログを解析すると、年末の深夜、全社員が退社したあとのフロアで、ただ1人システムにアクセスしていた記録が残っていました。アクセス元をたどると、佐伯さんが日常的に使用していた端末であることが判明。その端末からその日、同じ時間帯に複数回ログインした形跡が確認できました。
また、承認記録にも異常がみつかりました。本来は連続して残るはずの承認ログが不自然なほど細かく分割され、時刻に微妙な加工が施されていたのです。
「これは、慣れている人でないとできませんね」
調査担当者はいいます。社内の監視カメラにも、佐伯さんが何度も社長室の前を行き来している姿が映っていました。手には複数の申請ファイルを抱え、時折、壁の時計を見上げています。実態が明らかになるほど、信じたくない現実が積み上がっていきました。
深夜のアクセス、改ざんされた承認ログ、監視カメラに映る不自然な挙動……。その不正の痕跡のすべてが、佐伯さんによる犯行であることを明らかにします。
誰よりも信頼が厚く、仕事が丁寧で、だからこそ渡していた“内部の権限”。それを逆手に取られた現実に、社長はしばらく言葉を失いました。
不自然な兆候
事件が明るみに出たあと、社長の頭のなかで佐伯さんが不正送金に至った“兆候”がいくつもつながりはじめました。
たとえば、最近の生活ぶりの変化。ここ数ヵ月急に身なりが整いはじめ、やけに気前よく奢るようになっていました。その一方で、「目が合わない」「質問に対して返答が妙に早い/逆に遅い」「不自然に話題を変える」など、挙動が不自然な場面もみられました。
ただ、こうした兆候に社長が気づけなかったのには理由があります。経営において、人を疑い管理することには膨大な精神的コストがかかるもの。10年来の親友であり、実務に精通した佐伯さんは、社長にとって唯一、管理コストをゼロにできる相手でした。社長は無意識のうちに、佐伯さんを「疑う対象」から完全に除外していたのです。
「まさか彼が……」
喪失感と、経営の土台が抜ける恐怖が、同時に押し寄せてきます。しかし、そんな佐伯さんだけが単独で不正送金を実行できてしまう構造こそが、今回の悲劇を生み出したといえます。
