(※写真はイメージです/PIXTA)

子どもがいないわが家の場合、夫あるいは妻の遺産はすべて配偶者である自分のものになるはず…。そんな誤解をしているご夫婦は少なくありません。しかし、対策を立てないまま配偶者が先立つと、遺された配偶者が今まで通りの生活を送れなくなる、そんな恐ろしいリスクがあるのです。なぜそのようなことが起こるのでしょうか? 司法書士・佐伯知哉氏がわかりやすく解説します。

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相続人は「法律で決められている」…子どもがいない夫婦の落とし穴

相続が発生したとき、誰が相続人になるのかは法律(民法)で厳密に定められています。

 

【法定相続人の順位】

第一順位:直系卑属(子・孫)

第二順位:直系尊属(父母・祖父母)

第三順位:兄弟姉妹

 

そして、配偶者は常に相続人です。

 

ここまではよく知られていますが、問題はここからです。

 

【子どもがいない夫婦の場合の相続人】

親が生存 → 「配偶者+親」が相続人

親が他界 → 「配偶者+兄弟姉妹」が相続人

 

つまり、配偶者“だけ”が相続するわけではないのです。多くのご夫婦が「夫婦2人だけで問題なく完結する」と誤解しているため、遺言書を作らずにトラブルに発展してしまいます。

【実例】妻が相続した自宅、25%が「夫のきょうだい」のものに

ここで、実際に筆者が担当したケースをご紹介します。

 

ある子どものない夫婦がいました。夫が急逝し、妻は当然のように「自宅にはこのまま住み続けられる」と考えていました。しかし法定相続では、相続分は次のようになります。

 

妻:75%

夫のきょうだい3人:合計25%(それぞれ8.33%)

 

つまり、自宅は 妻と夫のきょうだい3人との「共同相続状態」になったのです。

 

しばらくして、きょうだいのうちの1人が「自分の持分を現金化したいので、買い取るか、家を売ってほしい」と言い出しました。妻にとっては青天の霹靂です。自宅は夫婦で住み続けるつもりだったもの。思い出の詰まった家を手放したくはありません。

 

しかし、各相続人には自らの相続分を要求する権利があります。結果、妻は話し合いの末、自宅を手放さざるを得なくなりました。

 

妻が最後にこぼした言葉が印象的でした。

 

「こんなことになるなら、夫に遺言を書いておいてほしかった…」

 

このようなケースは、実務では決して珍しくありません。

「配偶者だから全部もらえる」という認識は誤り

財産を承継する順番は、法律(民法)によって明確に決められています。配偶者以外にも血縁関係のある「親」や「兄弟姉妹」にも相続権がある構造になっているのです(子がいない場合)。その結果、

 

●自宅は「共有」になり

●配偶者が単独で売ることも貸すこともできず

●ほかの相続人の意思で住み続けられなくなる

 

といった事態があっさりと生じます。「配偶者だから全部もらえる」という認識は、残念ながら誤りなのです。

このリスクを「100%防ぐ方法」は1つだけ

結論をいうと「遺言書」を書けばすべて解決します。内容は難しくありません。自筆証書遺言で、次の一文を書くだけで十分です。

 

「私の全財産を妻(または夫)○○に相続させる。」

 

最後に「日付」「署名」「押印」を忘れなければ、法的に有効な遺言となります。

なぜこれだけで解決できるのか?

ほとんどの家庭では、被相続人が亡くなった時点でその親もすでに亡くなっており、相続人は配偶者と兄弟姉妹になります。ここで重要なのは、兄弟姉妹には「遺留分」がないという点です。

 

つまり、遺言書で「全財産を配偶者に」と指定しておけば、兄弟姉妹が法的に文句を言う余地はありません。

 

結果として、

 

●自宅が共有にならない

●配偶者が住み続けられなくなるリスクがゼロになる

 

この非常に大きな効果が、たった一言の遺言で実現します。

遺言書は「いつか書く」では遅い

遺言書は、書きたいと思ったときに必ず書けるとは限りません。病気や事故で判断能力が低下すれば、遺言書の作成自体が法的に無効となってしまいます。

 

子どもがいない夫婦にとって、遺言書は“争いを防ぐための書類”ではなく「配偶者の生活を守るための最低限の備え」なのです。

子どもがいない夫婦は、遺言書が「唯一の保険」

本稿の内容を振り返りましょう。

 

①子どもがいない夫婦は、配偶者だけが相続人になるとは限らない

②親や兄弟姉妹が共同相続人となり、自宅が共有になる危険がある

③遺言書を残すだけで、このリスクを100%防げる

④内容は「全財産を配偶者に相続させる」と書くだけ

 

遺言書1枚で、配偶者の生活、住まい、将来が守られます。

 

「うちは揉めないから大丈夫」「きょうだい仲はいいから心配ない」などと思っているご夫婦ほど注意が必要です。

 

法律が定める仕組みを知らないまま相続が始まると、どれほど仲がよくてもトラブルに発展してしまいます。

 

もし「うちの場合はどうだろう?」と気になった方は、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。

 

 

佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長


 

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