認知症となった80代賃貸不動産オーナー、家族は預金を引き出せず…修繕遅れで物件価値が激減→一族全体の問題に! 高齢化社会における「家族信託」の重要性

認知症となった80代賃貸不動産オーナー、家族は預金を引き出せず…修繕遅れで物件価値が激減→一族全体の問題に! 高齢化社会における「家族信託」の重要性
(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化が進展する日本では「認知症を患った家族の資産管理」という問題が増えています。なかでも不動産の管理は深刻で、所有者の預貯金が凍結されたことで高額な修繕費用が捻出できず、大切な不動産の価値が下がっていくのを見守るしかない、といった残念な事態も増えているのです。株式会社継志舎の代表取締役で、一般社団法人民事信託活用支援機構の理事を務める石脇俊司氏が解説します。

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「父の預金を父のために使いたいのに、引き出せないなんて…」

先日、筆者のもとを訪れたある相談者の方から、次のような質問を受けました。

 

「最近、父の判断力が落ちてきたように思い、心配になって認知症対策のセミナーに参加したら、『認知症になると預金が引き出せなくなる』と言われて…。銀行は、預金者の判断能力が衰えたことを知ると、本当に預金を引き出せないよう〈口座を凍結〉するのでしょうか?」

 

さらにその方は、父親の認知症の心配がありつつも、提案された対策について疑問があると言うのです。

 

「参加したセミナーでは、認知症対策には家族信託が必須だとして、家族信託のメリットをたくさん紹介するのです」

 

家族信託はいい方法だと思うが、家族にとってそれが本当にベストな方法なのか…。セミナーでメリットばかり聞いたことで、逆に疑問が膨らんだといいます。

 

「父のお金なのに、父のために家族が預金を引き出して使えないなんて、おかしいですよね? 対策は本当に〈家族信託しかない〉のでしょうか?」

 

この疑問には、筆者も共感するところがあります。しかし、不動産賃貸事業を行っている高齢の方には、一度、考えていただきたいと思います。不動産賃貸事業は「賃貸契約・家賃の管理・建物の修繕・借入の返済・税金の支払い」などなど、不動産を所有している方が、判断・実行しなければならないことが多数あります。

 

そのような状況で、本人の判断能力の低下により、使えるはずのお金が使えなくなってしまうと、事業が止まるリスクがあるのです。

 

筆者は、相談者の方に、

 

「お父様の預金に伴う問題は、〈凍結されるかどうか〉ではなく、相手側が〈お父様の意思を確認できなくなる〉ことにあるのです」

 

と、説明しました。

金融機関に置いた資産は、本人の意思確認なしには動かせない

銀行にとって「預金」とは、「預金者に返すべき借金(銀行の債務)」です。したがって、銀行は預金者が行う銀行への指示について、預金者本人の意思を確認し、その指示に対応していかなければなりません。

 

預金者が認知症になり、判断能力を有していない状況で指示したことに対して銀行が対応したとしたら、銀行には大きなリスクが生じることにもなります。

 

民法3条の2には「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と規定されています。この法律は、不利な契約や悪意ある第三者による搾取から、判断能力が著しく低下してしまった資産所有者を守ることを趣旨として、令和2年に法改正されました。

 

しかし、認知症になり判断能力を低下させてしまった人を保護する仕組みが、結果として「銀行預金を引き出せない」といった、必要な支払いすらできないという事態を招き、結果、矛盾が生じてしまったのです。

80代オーナーの不動産、修繕費が支払えず資産価値がガタ落ち

不動産賃貸事業において「修繕費が払えないために修繕できない」「設備更新ができない」という状況が生じると、不動産の価値が低下してしまい、家賃が減る、空室が増えるという事態が生じます。得た家賃を事業維持のために使えず、不動産賃貸事業に危機を招くことにもつながります。

 

かつて筆者が相談を受けた事例では、以下のようなことがありました。

 

賃貸オーナーAさん(82歳)は、認知症が進行して、判断能力が大きく低下してしまいました。そのため、Aさんの長男が修繕費の払い出しで、Aさんに代わって銀行預金を引き出せるようにしたいと、Aさんの預金口座がある銀行に相談しましたが、銀行はAさんの意思確認が取れないため、Aさんの長男がAさんを代理して修繕資金を業者に送金する手続きを受け付けられないというのです。

 

必要な資金が支払えず、Aさんが所有する賃貸不動産を修繕できずにいたところ、雨漏り・設備不良・壁のひび割れなど物件の劣化が進行。入居者からの苦情が増えて退去が相次ぎ、Aさんの家賃収入は急激に減少してしまいました。

 

Aさんの認知症が、資産の移動を「止めて」しまい、Aさんの不動産賃貸事業を衰退させることになってしまったのです。

資産を「使える状態で守る」仕組みが必要

資産が止まる原因は、資産所有者の取引の相手が「資産所有者本人の意思確認ができない」からです。なぜなら民法に、意思能力のない人が行った法律行為は無効になると定められているからです。

 

では、認知症への備えはどうしたらよいのでしょうか? それは「資産の所有者が元気なうちに、本人に代わって本人のために資産を動かせる仕組み」を作ればよいということになります。

 

その仕組みのひとつが「家族信託」です。以下に、家族信託をどのように使うとよいのか、3つの使い方を紹介します。

 

また、資産を動かす仕組みは家族信託以外にもあり、本人の財産の所有状況によって、必要な仕組みを検討していただけたらと思います。

家族信託の使い勝手のよい点は「継ぐ・まとめる・わける」機能

筆者は、家族信託の使い勝手のよい点を「継ぐ・まとめる・わける」の3つの信託の機能で整理しています。

 

筆者が相談を受けたAさんのケースでは、3つの機能のうち、とくに「継ぐ」機能を活用することで、Aさんの不動産賃貸事業を衰退させずに維持することができたと、筆者は考えています。

 

資産の所有者の大きなメリットは、所有する資産を活用して収益を得ることだといえます。しかし、認知症などで所有者の判断能力が低下すれば、資産を活用できなくなってしまいます。

 

そこで、信託の「継ぐ」機能を使えば、資産所有者の判断能力が低下しても、資産活用メリットを維持することができます。

 

賃貸不動産を有する不動産賃貸事業オーナーのケースでは、信託を利用して、賃貸不動産の管理権限を後継者に任せることができます(後継者が信託の受託者となって管理する)。それには、オーナーがまだ元気なうちに、家族信託で「賃貸事業を家族の後継者に継ぐ」仕組みを作ります。家族信託の開始以降は、不動産賃貸事業を衰退させることなく、オーナーが収益を得続けていくことができます。

 

また、オーナーが亡くなったとき、信託した賃貸不動産を後継者がそのまま継ぐことができますし、オーナーが亡くなったあとも信託を継続させ、オーナーの配偶者に賃貸不動産の収益を給付する仕組みとすることもできます。

 

信託の「継ぐ」機能をうまく使うことで、不動産の価値を守りながら、大切な資産と資産の収益を家族へと継いでいくことができます。

金融機関も認知症対策を進めている

信託は、資産を所有している人が信託を引き受ける人に資産を移転して(所有権を信託の引き受け手である受託者に移転して)行う仕組みですが、所有権を移転するために、信託を開始する際、今後の方針の決定など、さまざまな検討課題があります。

 

一方「資産の管理を代理する」という仕組みでも、判断能力が低下した人を守っていくことができます。この場合は、信託のように資産を移転する必要がなく、信託より簡易に始めることができます。

 

具体的には、金融機関では「(予約型)代理人口座」、証券会社では「家族サポート口座」といったサービスが開始しています。資産所有者の預金や有価証券の管理は、これらのサービスの利用で対応することも可能です。

 

しかし、賃貸不動産にまつわる管理・処分はさまざまな対応を柔軟に行う必要があるため、家族信託が必要になるケースが多いと筆者は考えています。家族信託ありきではなく、家族にとってどの仕組みで財産を守り継いでいくか、財産所有者が元気な間に家族で話し合いをしていただくとよいと思います。

 

 

石脇 俊司
株式会社継志舎 代表取締役 
一般社団法人民事信託活用支援機構 理事


 

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