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熟年離婚の特徴…「財産分与」が大きな争点となりがち
熟年離婚という言葉を皆様もこれまでどこかで聞いたことがあるかと思いますが、実際に熟年離婚の相談や事件の件数は多いです。従来は、相続の問題になっていたものが、離婚の問題として事件化していることも多いという印象を受けます。かく言う、私も取り扱ったことがあります。
熟年離婚では、離婚が認められるか否か自体や慰謝料が争点となることもありますが、財産分与が大きな争点となることが多いです。他方、子どもが成長している、場合によっては成人を迎えていることもあり、親権を巡る争いはそこまで激しくならない傾向にあると言えるでしょう。
これは、離婚した場合は、配偶者に対する扶助義務(民法752条)を原則として負わないことから、財産分与が今後の生活を保障する側面があるからだと思われます。特に、不動産がある場合は、生活場所の変更を伴う問題となりますので、紛争が激しくなりがちです。
会社財産と財産分与…分与の対象になる財産・ならない財産
【事例】
Aさんは妻との結婚が30年以上という50代の会社経営者。長年にわたる妻の浪費に嫌気が差し、離婚を検討しています。子どもはすでに独立していますが、唯一の懸念は財産分与です。もしAさんが離婚する場合、汗をかいて築き上げた会社の財産も、浪費を繰り返してきた妻への財産分与の対象となるのでしょうか?
財産分与は、特有財産を除き、夫婦が婚姻中に形成したすべての財産が対象となります。預金、不動産など、基本的に財産的価値のある財産全てが対象となります。となると、会社財産、具体的には、会社の預金が財産分与の対象となり、相手に分与しなければならないのではと心配になるかもしれません。
しかし、個々の会社の財産は経営者の個人の財産ではなく、あくまで会社に帰属するもので、別の財産です。したがって、個々の会社の財産は財産分与の対象とはならないのが原則です。
では、何も分与しないでよいかというと、そうではありません。会社の価値は株式や持分に集約されていると理解されていますので、会社の株式や持分が財産分与の対象になります。これが、原則です。
ただし、例外として、会社の財産が個人の財産と同視できる場合などは、会社の財産を財産分与の対象にすることがあります。但し、このような例外的な事例は多くはありません。
他方、経営されている会社の株式や持分を親から相続等で取得している場合は、その株式や持分は特有財産となり、財産分与の対象から外れます。ただし、その場合は、特有財産であることを立証する必要があります。特に、何十年も前の出来事を立証する証拠が出てこない、あるいは、ないといったことも想定できますので、ご注意ください。
会社財産の「具体的な分与」と「揉めるポイント」
次に、先ほどの原則的な処理を前提とすると、具体的に何株の株式をどの時点で評価して分与するのかが問題となります。
実務では、夫婦の協力関係がなくなった時点(大半は別居時)の株式を、協議や裁判時での時価で評価することになります。
そのため、争いが激しくなりやすいのは、①いつの時点を財産分与の基準とするのか、②株式の評価です。
①については、熟年の夫婦だと別居している期間が長くなり過ぎ、いつの時点で、どのような目的で別居したのかも不明なケースもあります。このような場合には、例え、長期間別居していたとしても、それが離婚を前提としたものかが分からず、財産分与の基準時が調停や訴訟を起こした時点と認定されることもあり得ます。この結果、分与する財産の金額が増えてしまうこともあり得ます。
②については、市場価格のある株式の場合はそこまで争いが激しくないですが、市場価格のない株式の場合は、株式の評価で争いが生じやすい傾向にあります。離婚の実務では、相続と違い、公認会計士による鑑定はそこまで多くありませんが、争いが激化しやすいポイントです。
裁判所は、相当多額でない限り「2分の1ルール」を変えない傾向
財産分与の際によく争いになるのは、財産分与の寄与度です。財産分与の割合は、原則は1対1です。半々という言葉や2分の1ルールという言葉を聞いたことがある人も多いかと思います。他方、自らの財産を大きくしたのは自分であって、相手ではないので、自分の財産の半分を相手に渡すことに納得がいかないという人も多いかと思います。
そこで、財産分与の割合を変えることが主張されることが離婚の実務では多いです。
財産分与の割合が変わるのは、夫婦の一方に特別な資格や能力があり、その人の能力によって多額の財産が形成されていると言える場合です。裏を返せば、他方配偶者の貢献がないと言える場合でしょう。
この例としては、医者、スポーツ選手がよく挙げられますし、会社経営者の場合もしばしばこの例に登場します。実際の裁判でも、この点がよく争いになります。ただし、裁判所としては、相当多額の財産でない限り、2分の1ルールを変えない傾向にあります。そのため、財産分与の割合を変えたい場合は、多額の財産の形成過程を具体的かつ説得的に主張していく必要があります。
北畑総合法律事務所 代表弁護士
北畑 素延
