(※写真はイメージです/PIXTA)

昭和41年に亡くなった祖父名義のまま残る実家を、生活費や入院費のために売却したい——。しかし土地は市街化調整区域、名義は故人のまま、相続人は代襲相続を含め28人。複雑な条件が重なる中で、売却を実現するためには相続登記や相続分譲渡をどう進めるかが鍵となります。本ケースでは、現実的な手続きの流れと具体的な解決策を探っていきます。相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。

祖父名義の実家を売りたい

ある日、依頼者の奈美江さん(70代・女性)が相談に来られました。奈美江さんは来られるまでに2回ほど電話でご相談をしていました。すぐに決断されなかったのはどこに頼んでいいかわからないこともあり、弁護士、司法書士などいろいろなところに相談をしていたからだといいます。

 

内容は、昭和41年に亡くなった祖父名義の実家に関するものでした。現在は奈美江さんの弟(70代)が独身でずっと実家住まいをしてきて一人暮らしです。弟は以前より仕事をしておらず現在は生活保護を受けていると言います。また、ずっと入院中の独身の姉(80代)もいるので、実家を売って2人の生活費や入院費の補填にしたいということです。

土地は調整区域

実家の土地を調べてみると、約475㎡(約143坪)の広さがあり、都市計画上は市街化調整区域内に位置しています。ただし、地目は宅地で、これまで住宅として利用されてきた「既存宅地」に該当するため、都市計画の制限はあるものの売却は可能であり、買主が居住を目的とする場合は建て替えも認められる土地です。

 

建物は老朽化が進んでおり、維持費や修繕費が大きな負担となっています。現在の登記名義人は故・祖父のままであるため、売却や建て替えなどの手続きを進めるためには相続登記(名義変更)が必要です。固定資産税評価額は約863万円で、土地の価値に対して税負担は比較的軽い状況です。

 

ポイントは、調整区域内の宅地であるため、都市計画の制限はあるものの、自宅として使用されていた建物と土地は売却可能ということです。

調整区域でも“宅地”なら建物が建てられる理由

市街化調整区域(いわゆる“調整区域”)は、都市計画で「市街地をこれ以上広げないための区域」として指定されており、原則として新しい家を建てることは制限されています。

しかし、今回の土地は


・すでに家が建っていた
・住宅として利用されていた
・地目が宅地である

 

このため、既存の住宅の建て替えは可能となります。調整区域であっても、もともと住宅が建っており、その敷地が“宅地”として扱われていれば建て替え(同規模程度の住宅)は問題なく認められます。

 

自治体によって運用は多少異なりますが、一般的に下記のような扱いです。

 

• 新たに宅地を作ることは不可(原則)
• しかし、既存住宅の建替えは可能
• 用途を変える(店舗・アパートなど)は制限されることが多い

 

つまり、今ある家を住むために建て替えることはできるという点が重要です。
ただし、143坪と面積は広くても原則は1棟の建物しか建てられないという制限があります。

調整区域でも“宅地かつ居住用”なら売却できる

調整区域にあるからといって、「売れない」「取引できない」ということではありません。今回の土地は、宅地(約475㎡/143坪)、過去に居住用として利用されていた建物がある、名義は故・祖父で相続登記が必要 ですが、このようなケースでも、売却可能です。買主が住居として使用する前提であれば、建て替え可能であることが大きなメリットとなります。


※市街化区域に比べて買い手が限られますが、“建て替え可能な調整区域内宅地”はニーズがあります。

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