売却する際は「居住用財産の3,000万円控除」が使える
建物が古いとはいえ、居住している「自宅(居住用財産)」であるため、住んでいる弟さんが売る場合は、譲渡所得の3,000万円控除が使えます。
これは、売買で利益が出ても3,000万円までは税金がかからないという非常に大きな節税の仕組みです。
たとえば、売却価格2,000万円、取得費・費用計300万円、相続の取得原価は5%=100万円の場合、
2,000万円-100万円-300万円=1,600万円 が譲渡益となり、通常は20.315%=325万円の譲渡税となりますが、3,000万円控除を適用でき、譲渡所得税はゼロになります。
相続登記の準備
売却するには祖父の名義から、弟さんの名義に変える必要があります。それには、祖父の相続人の確認からする必要があります。相続登記の資料は下記となります。
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祖父の出生から死亡までの戸籍収集
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相続人の戸籍・住民票を取得
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法定相続情報一覧図の作成・法務局認証
このように祖父の戸籍から、相続人全員を確定できます。奈美江さんにこうしたことを説明し、祖父の戸籍から集めてもらうようにします。
28人の遺産分割協議は簡単にはいかない
相続人の確定ができれば、相続人全員で遺産分割協議をします。しかし、祖父は昭和41年に亡くなっていて、本来の相続人である7人の子どもたちもすでに全員亡くなっており、その代襲相続人である孫たちが遺産分割協議をすることになります。
本来7人が相続人だったところ、孫世代は28人となります。しかし、長男の子どもである奈美江さんの弟が住んでいる実家を相続して売ることが現実的で、譲渡税がかからない方法と言えますので、当方はそうした方法を提案してサポートしています。
28人で遺産分割協議書を作成することは実務的には簡単ではないため、全員が弟さんに自分の相続の権利を譲渡する「譲渡証書」を作成する方法とします。そうすることで祖父の財産を相続するのは弟さんとなり、シンプルです。
相続分譲渡とは
相続分譲渡とは、相続人が持っている自分の法定相続分(相続権)を、他の相続人や第三者に譲渡することをいいます。例えば、相続人Aが自分の相続分の一部または全部を、相続人Bや第三者Cに売却または贈与することが可能です。譲渡された相続分は、譲受人が譲渡分に応じた相続権を持つことになります。
手続きの流れは下記のとおりです。
- 譲渡契約の締結
・相続分を譲渡することを証明する契約書を作成
・売買でも贈与でも契約可能 - 相続人間での合意
・譲渡は原則として相続人同士または第三者に対して行うことが可能
・第三者に譲渡する場合は、他の相続人への通知が必要な場合あり - 登記(不動産の場合)
・不動産の相続分を譲渡した場合、譲渡人・譲受人の持分を変更する登記を行う
・登記を行わないと権利関係が不明確になり、将来トラブルの可能性
相続分譲渡にしたほうがいい場合
• 複数の相続人がいる場合に、一人の相続人に家や土地をまとめたいとき
• 現金化せず、特定相続人に権利を集中させたいとき
• 相続トラブルを避けるため、遺産分割協議前に調整したいとき
昭和41年に亡くなった祖父の相続登記をし、実家を売却して換金する場合は、実家に住んでいる弟さん1人が相続するのが現実的です。しかし、相続人全員に印鑑証明書を用意してもらい、実印押印にて「相続分譲渡」の書類を作成しなければなりません。内容的には相続放棄となるのですが、まったくの無償では協力してもらえないこともあるかもしれません。その際は、贈与税のかからない110万円以内の現金を渡すことで理解を得るようおすすめしています。
奈美江さんはこうした方法できょうだい、いとこたちの協力を得るよう説明するので、サポートしてほしいと言って帰られました。これから実務的にサポートしていきます。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
