「おばあちゃん、また来たよ!」と玄関を開ける声に
東京都郊外に暮らす村田美代子さん(仮名・70歳)は、4年前に夫を亡くして以降、築40年の一戸建てでひとり暮らしを続けています。子どもは二人。長男は関西に転勤中で、次男の拓也さん一家が車で30分ほどの距離に住んでいます。
「拓也の奥さんが働いているから、月に1回くらい、土日に孫を連れて遊びに来るんです。最初は本当にうれしかった。『おばあちゃんの家は楽しい!』って言ってくれて。だからつい、おもちゃを用意したり、おやつをたくさん買い込んだりしてしまって」
5歳と3歳の男の子兄弟は、にぎやかで元気いっぱい。昼食・おやつ・夕食にと用意するものも多くなり、「せっかく来てくれたんだから」と、ついスーパーで割高なスイーツを買ったり、宅配ピザを頼んだりする日も増えていきました。
「でも年金だけで暮らしていると、たかが1回でも数千円の出費が痛いんです。翌週はスーパーで特売品ばかり狙って、それでも生活費が赤字になることもある」
美代子さんは年金月20万円でやりくりしています。貯蓄は夫の遺産を含めて1,300万円ほどあるものの、「老後は長いし、介護や病気に備えてなるべく手を付けたくない」というのが本音。
とはいえ、孫に「おばあちゃん、これ買って」と言われれば断れず、次男夫婦にも「気を遣わないでね」と言われるため、遠慮して助けを求めることもできません。
「孫に嫌な思いをさせたくないし、『おばあちゃんの家、つまらない』と思われるのも怖くて。だから、来てくれるのは嬉しい反面、心のどこかで“また今月も…”と思ってしまうんです」
こうした声は、美代子さんだけから聞かれるものではありません。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の『家計の金融行動に関する世論調査(2024年)』によれば、70代の単身世帯における平均貯蓄額は1,634万円とされています。数字だけを見ると「老後資金は足りているのでは」と感じるかもしれません。
しかしその中央値は475万円と大きく下がります。これは、ごく一部の“資産が多い人”が平均値を押し上げていることを意味しており、「実際には約半数の高齢者が500万円未満の貯蓄で生活している」ことを示しています。
また、同調査では「貯蓄ゼロ」と回答した人も27.0%にのぼり、およそ4人に1人が“老後資金をまったく持たない”状況にあることが明らかになっています。
子や孫との付き合いのなかで「見栄」や「習慣的な出費」が発生しやすいことも、家計を圧迫する要因です。高齢期は医療・介護のリスクが高まるため、本来ならば予備費の確保が重要。それでも、「親としての責任感」や「よい祖父母でいたい気持ち」が先立ち、つい財布の紐が緩くなってしまうのです。
