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焦点は「通帳の管理者」…ベテラン調査官の“静かな尋問”
税務署による聞き取り調査は2日間にわたり行われました。調査官は2名で、ベテランと若手のコンビ。
ベテラン調査官は物腰が柔らかく、まるで医師が患者に話を聞くような口調で穏やかに話を進めていきます。「ちょっと思い出せないかもしれませんが、どんな感じだったか教えていただけますか?」そういって相手の心を開かせ、油断したところで核心を突く質問を投げかける。「本当ですか?」と静かに詰め寄るときの迫力は、長年の経験を感じさせるものでした。
調査官はまず、被相続人の預金の流れを確認し、次に妻・子・孫の口座へと視線を移しました。「この預金の入金はどこから?」「この出金はどなたが?」質問は細かく、とことん緻密です。
調査官が最も注目したのは、「通帳の管理者は誰か」という点でした。形式上は妻や子どもの名義であっても、通帳や印鑑を被相続人が持っていれば、それは実質的に本人の財産とみなされます。いわゆる「名義預金」に該当する可能性が高くなるのです。
今回のケースでは、6人の孫へ3年がかりの合計2,000万円の贈与と、妻の口座にある4,000万円が焦点になりました。
孫への贈与は、一部に贈与契約書がなく、調査官は「名義預金ではないか」と主張し、一時は相続財産に加算するという姿勢を示しました。しかし筆者が、「お孫さんが管理する口座に移しており、実際に学費などに使っているので名義預金ではありません」と説明。贈与契約書がない部分についても、通帳の管理状況やお金の使用実態を丁寧に確認することで、最終的に贈与は成立していたと判断され、修正申告の必要はありませんでした。
一方、妻の4,000万円については、何度もやりとりが繰り返されました。「収入のない専業主婦が、なぜこれだけの預金を持っているのか」「この口座を管理していたのは誰なのか」「実際には夫の資産(土地を複数回売却した際の収益)を移したのではないか」――。調査官の質問は柔らかい言葉ながらも、核心を突いています。
妻も緊張していたのか、最初は「どうだったかな……」「あまり記憶が……」と曖昧な返答をしていましたが、話を聞いていくうちに、代々地主だった妻の両親からもらったお金で、ずっと使わずに貯めていたものであることがわかりました。具体的な証拠はなかったものの、10年以上ほとんど動きのない口座であり、通帳の履歴からも長期にわたる蓄積であることが確認できました。結果として、税務署も「4,000万円は夫とは関係がなく、妻自身の資産である」と認定し、税務調査は終了しました。
