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常識を疑い続ける姿勢が新しい発見をもたらす
筆者が45年間の医師生活の中で実感したのが、「教科書に載っている常識を疑う」という姿勢である。これは医師にとって、また研究者にとって非常に大切なことである。
医学は日進月歩であるので、教科書の知識は時が経つにつれて徐々に古くなる。それは、10年も20年も前には当たり前に行われていた治療の中に、今考えるととんでもない治療とされることがあることからも明らかである。となると、自分の目の前にいる患者がその時点で最も新しい症例となるのだ。
「患客皆師」の言葉どおり、教科書に載っている知識をあてにせず、常に教科書を疑い、目の前の患者の病気がなぜ起こっているのか、どうすれば治るのかを必死になって考える。それがプロの医師としての振る舞いなのだ。
一日50人も60人も外来診療をしていると、どんなに強い使命感を持っていてもだんだん疲弊してくるうえに、風邪や腹痛といった同じような症例ばかりを診ていると診療そのものもマンネリ化しがちである。しかし、ごくたまにではあるが「あれ?」という症例に出会うことがある。
大学を卒業して研修医生活が始まった頃の話だが、研修先でMCTD:Mixed Connective Tissue Disease(混合性結合組織病)という病気の患者の診療を担当することになった。MCTDとは、1972年にアメリカのシャープという人が提唱した病気で、指定難病にもなっている自己免疫疾患の一種だ。
関節炎やリンパ節腫脹、顔面紅斑などのSLEと似たような症状のほか、手指の皮膚硬化、肺動脈性肺高血圧症、無菌性髄膜炎などの症状が現れる。1972年にシャープが医学論文雑誌の「The New England Journal of Medicine」に投稿した論文には、SLEには腎障害が認められるがMCTDには腎障害が認められないのが特徴であると書かれていた。そのため、当時はMCTDには腎障害が認められないと一般には思われていた。
ところが、筆者の診察したMCTDの患者では、尿検査をすると蛋白尿が、さらに腎生検で腎疾患の病理診断をすると明らかな腎障害が認められたのだ。つまり、著名な医学論文とは異なる検査結果になっていたのである。「シャープがMCTDには腎障害はないと論文で報告していたのに、腎障害があるではないか」と疑問に思いつつも、1例目は「単なる偶然だったのだろう」と考えてさほど気に留めることはなかった。
それから半年後にまたMCTDの患者を診察する機会が巡ってきたのだが、そのときにもわずかながらに蛋白尿が認められたのである。2例同じ検査結果となる症例が続いたのだ。教科書と異なる検査結果となったのが1例だけであれば単なる偶然だと片付けてしまうかもしれないが、2例目が現れたならば、医師としては「さすがにこれはおかしい。何かあるはずだ」と気がつかなければならない。3例目があったら、これはただごとではないと思うべきだ。
その後もっと症例を集めようと、当時の研修医仲間に「MCTDでは腎障害はないはずなのに、腎障害のあるMCTD患者を見つけた。もし、みんなの勤める病院でMCTD患者に出会ったら教えてくれ」と呼びかけた。こうして、その後5例が集まり、MCTDには腎障害があることを、「American Journal of Nephrology」というアメリカの腎臓病の論文雑誌に報告した。
