「静かで、空が広くて…本当に理想の場所だと思った」
佐藤由紀さん(仮名・64歳)は、夫の定年を機に東京都下の分譲マンションを売却し、長野県の山間部にある中古住宅へ移住しました。
「テレビの移住特集を見て、夫婦で『うちも老後は田舎に住もう』と話していたんです。実際に見に行ってみたら、川の音と鳥のさえずりだけが聞こえる、絵に描いたような環境で…すっかり気に入ってしまいました」
物件価格は1,200万円。都心での売却益を充て、ローンなしで購入できたことも大きな決め手になりました。
移住直後は、庭に花を植え、家庭菜園を始めるなど、新生活に胸を躍らせていたという佐藤さん。しかし半年が経つころ、じわじわと心に“異変”が生まれ始めました。
「近所の方とはすれ違えば挨拶はしますが、それ以上の関係にはなりにくい。もともとその地域で生まれ育った人たちが多く、私のような“外から来た人”は、なんとなく距離を感じました」
買い物に行くにも車で20分、雪の日は外出すらままならない。気づけば、夫としか会話をしていない日が増えていたといいます。
「静かでいい場所だと思っていたけど、こんなに“孤独”になるなんて思ってもみませんでした」
田舎暮らしでは、自治会や隣組(となりぐみ)といった独自の地域制度が今も色濃く残っている地域もあります。
「町内会費」だけでなく、「清掃活動」や「お祭りの手伝い」、「消防団のサポート」など、地域に溶け込むには一定の“参加姿勢”が求められるのが現実です。
「断れば悪い印象を持たれるし、かといって毎回参加するのも体力的にしんどい。結局“どっちつかず”になってしまい、地域から孤立してしまったように感じます」
