〈成年後見の補完〉〈遺言代わり〉にもなる?親の財産管理、兄弟共有の土地、先祖代々の土地…“争続”を未然に回避する「家族信託」という選択肢

〈成年後見の補完〉〈遺言代わり〉にもなる?親の財産管理、兄弟共有の土地、先祖代々の土地…“争続”を未然に回避する「家族信託」という選択肢
(※写真はイメージです/PIXTA)

相続が必要なタイミングで親族に認知症の人がいた場合、遺産や土地の相続がスムーズにいかず、親族間トラブルに発展することもあります。そうした“争続”を未然に回避する意味でも、成年後見を補完し、遺言の代わりにもなるといわれる「家族信託」の活用を選択肢の1つにしてもよいかもしれません。本記事では、奥田周年氏の著書『新版 親が認知症と思ったら できる できない 相続』(ビジネス教育出版社)より、親族間相続トラブルを回避する上で活用したい「家族信託」の事例を紹介します。

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「家族信託」で親の財産管理をできるようにしておけば…

2年前に脳梗塞を起こして入院したお父様は、今ではだいぶ回復しつつあり、老人ホームでリハビリを続けています。

ご長男は、お父様が所有している自宅や預金の管理を心配していて、特に自宅については、近所から植栽や家屋の修理など管理をしっかりしてほしい、といわれています。

家屋の修理は大規模な内容になりそうです。何か良い方法はないかと思っていたところ、家族の中の信頼がおける人に、お父様の財産管理と介護費用などの生活サポートの資金の捻出を目的とする「家族信託」という制度があることを知りました。
 

信託の内容

[図表1]親の財産管理を長男がするケース


ご長男(55歳)には、お父様(75歳)と弟(53歳)がいます。

○信託の目的:信託財産の適正な管理・運用・処分によりお父様の介護費用や生活費、医療費などに必要な資金を給付すること
○委託者:お父様
○信託財産:自宅、現金3000万円
○受託者:ご長男

ご長男は、お父様と信託契約を結び、自宅の名義をご長男に変更するとともに、現金をご長男の「信託口」の口座に入金します。ご長男は、信託財産である自宅を管理(修繕など)するとともに、生活資金の不足が予想されるときは、賃貸したり、場合によっては処分をし、現金3000万円とともに、お父様の介護費用、医療費、生活費に充当します。

また、お父様に相続が発生したときは、信託は終了し、残余財産を長男と二男が2分の1ずつ相続することとしました。

○受益者:お父様(生活費の受取り)
○お父様が亡くなった後の財産の帰属権利者:長男2分の1、二男2分の1
 

家族信託を設定するときの信託契約書の作成方法

信託契約の当事者は、委託者(今回のケースでは、委託者兼受益者)である父と受託者である長男になります。信託契約書は、公正証書で作成しなくても無効ではありませんが、次の理由から、公証人に依頼して公正証書で作成します。

〇信頼性が高い(契約の有効性が証明される)
〇改ざんや偽造がない
〇紛失しても再発行が可能
〇金融機関での「信託口」口座の開設には、公正証書が要件

「信託口」の口座は、受託者自身の固有財産と信託財産を区別するために必要となります。本来の「信託口」の口座ではなく、名義だけの口座の場合は、受託者に相続が発生したときに凍結されてしまうなど不都合が生じます。このケースでは、お父様が信託契約という法律行為をできるかどうかが、1つのポイントになり、意思能力の有無が重要になります。
 

お父様が亡くなった後の税金

このケースで、お父様が亡くなった際に残っている財産は、自宅を処分してしまったため、現金のみの5000万円であったと仮定します。

信託契約では、残った財産を2分の1ずつ、長男と二男で分けるように記載されているため、2500万円ずつ取得します。この2500万円ずつを取得したときにかかる税金は、相続税です。
 

[図表2]相続税の適用条件と基礎控除のしくみ

 

相続税は、基礎控除額を超える場合に、発生します。相続税の基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数で計算することができ、このケースでは、3000万円+600万円×2人=4200万円となります。

お2人が取得した財産は、5000万円ですから、基礎控除額の4200万円を超える部分に相続税がかかります。図表3は、配偶者の特例を適用しない場合の相続税の総額の早見表です。

 

[図表3]相続税の早見表(配偶者の特例を適用しない相続税の総額)

 

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※本連載は、奥田周年氏の著書『新版 親が認知症と思ったら できる できない 相続』(ビジネス教育出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

新版 親が認知症と思ったら できる できない 相続

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