(※写真はイメージです/PIXTA)

「老後は“持ち家”で安心」という神話は、時に現実とずれていることがあります。とくに郊外に広い一戸建てを構えた世代では、定年後に“広すぎる家”や“空間の孤独”に向き合うことになり、売却を選ぶケースも増えています。住宅ローンを完済していても、それが「安心」の証とは限らないのです。

「住み慣れた家なのに、息苦しいと思う日があった」

「もうこの家にはいたくないの…」

 

そうつぶやいたのは、埼玉県郊外に住む72歳の主婦・野村恵子さん(仮名)です。

 

夫の勝也さん(75歳・仮名)と二人三脚でローンを払い続け、40代後半に手に入れた4LDKの注文住宅。駅からは少し距離がありましたが、「広さ」と「自然の多さ」に惹かれて決めたマイホームでした。

 

「子どもたちも2人いたし、あのときは“これで老後も安心”って本気で思っていたんです」

 

しかし、定年退職後に子どもたちは独立。現在は夫婦2人きりで、空き部屋が3つ。「2階にはもう何年も行っていない」といいます。

 

「夏も冬も、部屋ごとに冷暖房をつけるのがもったいなくて。1階のリビングだけで生活しているけど、家全体が寒いし、掃除も大変。広かったはずの家が、どんどん“負担”に変わっていったんです」

 

住宅ローンを完済しても、「家を所有するコスト」は続きます。とくに築20年を超えると、以下のような出費が重くのしかかってきます。

 

●固定資産税:地域にもよりますが、郊外でも年間10万円以上になることも珍しくありません。

 

●リフォーム・修繕費:屋根や外壁、水回りの老朽化が進み、リフォームには数十万~数百万円かかることも。

 

●バリアフリー化:足腰の衰えに備えて、手すりの設置や段差の解消が必要になるケースもあります。

 

恵子さんは「最近は、キッチンの水漏れ、2階の窓の建て付け、給湯器の不調…次から次に問題が出てきて」と疲れた様子で語ります。勝也さんもまた、「年を取ってから、こんなに“家に振り回される”とは思わなかった」と本音を漏らします。

 

「昔は2階の寝室に階段を上るのも平気だった。でも今は1階で布団を敷いて寝ている。それでも毎年の草むしりや、雪が降った時の対応は自分たちでやらないといけない」

 

住宅ローンの完済は10年前。そのときは「やっと自由だ」と思ったそうですが、実際には「所有し続けるためのランニングコスト」と「体力的な負担」に直面し、「気づけば“この家の管理人”になっていた」と振り返ります。

 

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