金(ゴールド)の価格が10月21日、前日比5.5%急落し、1日の下落幅としては過去10年余りで最大を記録した。とはいえ、金価格は年初来で主要通貨建てすべてに対して上昇し、4,000ドルを突破しており、長期的な上昇トレンドに変化はないといえるだろう。この背景には、米ドル安の見通しや新興国中央銀行の買いなど、複数の構造的要因が重なっていると考えられます。10月の金市場動向から、高騰を支える要因と今後の展望についてみていきましょう。なお、本稿はステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの4名のストラテジストによる共同執筆です。
金価格「4,000ドル」突破へ…高騰を導く「FOMO」心理
FOMO(取り残される恐怖)が支配する現在の環境下では、スポット金価格が1オンスあたり4,000ドルの大台に乗るのは可能性ではなく時間の問題だと思われます。当社は、第4四半期か2026年初めまでに4,000ドルを突破する確率を75%とみています。2025年は、金のリターンが1979年以降で最高となる見込みです※1。
1オンス3,500ドルが新たな下値支持帯になるとみられます。特に11月/12月は金ETFが季節要因により低迷する傾向にあるだけに、第4四半期に金価格が7~8%下落する可能性はありそうですが、そうした押し目にはいずれ買いが入ると考えます。当社が注視している主なファクターは以下のとおりです。
◆米ドルの下落トレンドが、金価格を下支え
ドルが年率で1970年代以来の急落を記録しつつあるなか※2、金はデノミネーション効果(為替変動による価格への影響)から恩恵を受けています。
また、米国内のインフレと財政刺激が続くなかでのFRBの利下げサイクル再開は、米国債イールドカーブの一段のブル・スティープ化を促す可能性があります(これは金価格を下支えし、米ドルを下押しする可能性があります)。
◆2020年以来の高水準…「金ETF」への資金流入が顕著
2025年の世界の金ETFへの資金流入は、名目額ベース、保有量ベースいずれにおいても2020年以来の高水準となっています※3。しかし、金ETF全体の現物保有量はパンデミック時のピークを超えておらず※4、さらなる買い余地を示唆しています。
金ETFへの資金流入は、金の需給バランスを大きく引き締める可能性があり、今年の記録的高値をけん引する主要因となっています。
◆景気回復も、米労働市場は軟化…「スタグフレーションリスク」が金に追い風
歴史的に、低成長・高インフレの局面で金はアウトパフォームしてきました※5。今夏に成長率が回復したものの、民間調査(ADPリサーチ・インスティテュートなど)や政府(米労働統計局)統計に基づくと米労働市場は軟化しています※6。
一部の物価指標やインフレ調査は、関税政策をめぐる不確実性の中でインフレが再燃するリスクを浮き彫りにしています※7。
こうした懸念はFRBも共有しています。ソフトランディングが依然として可能性の高い基本シナリオではあるものの、労働市場の持続的な弱さは、リセッションやスタグフレーションのリスクを高め、金への資金配分を後押しします。
◆中央銀行・個人ともに金需要が堅調
2022~24年のピークからは減少しているものの※8、各中央銀行は健全なペースで金保有量を増やし続けています。中国のリテール金需要も予想を上回っています。これらは、金価格の上昇に拍車をかける重要な固有要因です。
◆今後の見通しは不透明…「不確実性プレミアム」が“恩恵”に
経済・外交政策の結果として、最も可能性が高いとされるシナリオの幅が広がるにつれ(特に米政府機関の閉鎖が長引いた場合)、金はボラティリティとリスクオフ・ヘッジから恩恵を受けると思われます。
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ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社
ヴァイス・プレシデント
ゴールド・ストラテジスト
2024年6月にステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社に入社。グローバルのSPDR(スパイダー)・ゴールド・ストラテジー・チームに所属する日本拠点のストラテジストとして、日本における機関投資家ビジネスおよびファンドやETFを担当するインターミディアリービジネスのセールス活動を、金(ゴールド)とETFプロダクトの専門家としてサポート。
ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社に入社以前は、ウェルメイ株式会社のゼネラルマネージャーとして不動産投資の評価や新しい投資機会のソーシング業務に従事。それ以前は、ナットウエスト・マーケッツ証券会社、ソシエテ・ジェネラル証券株式会社、ICBCスタンダードバンクでさまざまな役職を歴任。ICBCスタンダードバンクでは金を含むプレシャス・メタル(貴金属)の営業担当として、ビジネスの推進や顧客リレーションの開拓も担当。ボストン大学経済学学士およびマギル大学大学院経営学修士を取得。また、慶応義塾大学にて日本語プログラムを修了。
なお、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントは、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社が行う資産運用関連業務のブランド名である。
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連載記事一覧
連載【ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント】金市場を徹底分析
〈注釈〉
※1 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※2 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※3 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※4 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※5 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※6 Source: Automatic Data Processing, Bureau of Labor Statistics, State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※7 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※8 Source: World Gold Council, State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※9 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※10 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※11 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※12 Source: World Gold Council, State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※13 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※14 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※15 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
※16 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 9/30/2025.
〈用語集〉
・中央銀行……国または国家連合のために、貨幣および信用の創造と分配を独立性を持って管理する金融機関。
・COMEX……コモディティ(主に金、銀、銅、アルミニウム)の先物を取引する市場。
・金のスポット価格……スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。
・LBMA午後金価格(米ドル/オンス)……LBMA金価格はIBAが独立して管理し、価格算出のためのオークション・プラットフォームを提供していますが、知的所有権はLBMAに帰属します。プラットフォームは、電子的に取引および監査が可能で、証券監督者国際機構(IOSCO)の金融ベンチマークに関する原則に沿って設計されています。
・実質金利……インフレ調整後の金利。物価上昇の影響を取り除くことで、真の借入れコストおよび投資による実際の利回りを反映します。
・米連邦公開市場委員会(FOMC)……米連邦準備制度内にある委員会で、金融政策を決定します。
・解放の日……広範にわたる関税措置の実施について、米貿易政策の転換点という位置づけを象徴するために用いられた言葉。米国の産業を海外の製造業への依存から「解放」し、貿易不均衡を解消するという考えを反映しています。
・脱ドル化……各国が国際貿易、金融取引、外貨準備における米ドル依存を減らすプロセスで、多くの場合、その背景には地政学的動機、制裁リスク、自国通貨の主権確保の取り組みがあります。
・関税……外国から輸入される財とサービスに国が課す税金で、通常、財政収入を拡大するため、あるいは国内産業を海外との競争から守るための手段として用いられます。【ご留意事項】
本書は、投資の推奨や投資アドバイスを意図したものではなく、そのようなものとして依拠されるべきではありません。
本稿に示されている見解は2025年9月17日時点のSPDRゴールド戦略チームの見解であり、市場やその他の状況によって変わる場合があります。本資料には、将来の見通しと見なされる可能性のある記述が一部含まれています。その様な記述は、将来のパフォーマンスを保証するものではなく、実際の結果や展開はこれら予想とは大きく異なる場合がある点にご注意ください。
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Exp date:9/30/2026