トランプ大統領が憧れる1890年代のアメリカ…高関税と鉄鋼の時代に見る、再び“世界一”を目指す国家像【国際税理士が解説】

トランプ大統領が憧れる1890年代のアメリカ…高関税と鉄鋼の時代に見る、再び“世界一”を目指す国家像【国際税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

トランプ大統領が理想とするアメリカ像の原点には、1890年代の「高関税時代」があります。この時代、アメリカは保護貿易によって国内産業を守り抜き、鉄鋼業を中心に世界最強の経済大国へと成長しました。トランプ氏が掲げる「アメリカ・ファースト」には、当時の繁栄への郷愁と、再び“世界一”を取り戻したいという強い思いが込められています。

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高関税時代の幕開け…国家財源は関税と酒税だった

1890年代のアメリカは「High Tariff Era(高関税時代)」と呼ばれ、国内産業を守るために輸入品へ高い関税を課していました。

 

当時はまだ所得税や法人税といった直接税が存在せず、国家の主な歳入は関税と酒税、たばこ税などの物品税(excise tax)によって支えられていました。

 

日本も同様で、明治中期に日清戦争の財源として所得税が、日露戦争の戦費を補うために相続税(遺産税)が導入されました。戦争が税制改革を促すきっかけとなったのです。

所得税は違憲だった…最高裁が示した時代の壁

1890年、マッキンリー関税法(McKinley Tariff)により、関税率は50%へ引き上げられました。

 

その後、1894年のウィルソン=ゴーマン関税法(Wilson-Gorman Tariff Act)では、関税率をやや引き下げる代わりに、初めて所得税が導入されました。

 

しかし翌年、連邦最高裁(Pollock v. Farmers’ Loan & Trust Co.)はこの所得税を「違憲」と判断し、法律は廃止されました。課税対象は年収4000ドル超の人々で税率はわずか2%。歳入全体の1%にも満たないものでしたが、裁判所は「直接税は個人からではなく、州の人口に比例して課すべき」との見解を示しました。

 

アメリカで本格的な所得税が導入されたのは、1913年の第16条憲法修正(Sixteenth Amendment)によってです。

保護政策の光と影…鉄鋼業が築いた“世界一”

高い関税によって物価が上がり、農民や消費者の間には不満が広がりました。一方で、鉄鋼や繊維などの国内産業は大きな利益を得ました。

 

特にアンドリュー・カーネギーの率いた鉄鋼業は、アメリカの「富国強兵」を象徴する存在となり、経済・軍事の両面でアメリカを世界一の大国へと押し上げました。

トランプ氏の原点…USスティールと大谷翔平の象徴性

トランプ大統領がUSスティールに強いこだわりを見せるのは、この1890年代の成功体験に原点があるからです。彼は、当時のようにアメリカを再び「名実ともに世界一」に戻したいと考えています。

 

大谷翔平選手をホワイトハウスに招き、執務室でツーショット写真を撮ったのも象徴的な出来事でした。トランプ氏にとって大谷選手は「世界一のプレイヤー」であり、アメリカが目指す“世界一”の象徴だったのではないでしょうか。

 

元ヤンキースのA・ロドリゲス氏もこう語りました。

 

「MLBの三大打者と言われるが、大谷は世界一のプレイヤー、ジャッジは全米一、ソトはただのプレイヤーだ」

 

この発言はアメリカ人の心をつかみ、トランプ氏の価値観にも通じるものでした。

日本への教訓… “ホワイトハウスの空気”を感じ取れ

日本の政治家や経済人は、こうしたアメリカの歴史的背景や国民感情を軽視してはいけません。トランプ大統領の政策や発言の根底には、歴史的な文脈と文化的な象徴性が深く根付いています。

 

対米政策を考えるなら、書類やニュースだけで判断するのではなく、現地に足を運び、ホワイトハウスの空気を実際に感じることが大切ではないでしょうか。1890年代のアメリカのように、「何を守り、何を世界に示すのか」という国家の理念を理解することが、真の国際対話への第一歩となるでしょう。

 

 

奥村 眞吾

税理士法人奥村会計事務所

代表

 

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