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転職が決まった日に切り出された「離婚」
神奈川県内で暮らす工藤素直さん(40歳・仮名)は、職場で知り合った妻の裕子さん(40歳・仮名)と、24歳の時に結婚しました。15歳になる一人娘がいて、穏やかで安定した家庭を築いてきた――そう思っていました。
素直さんはメーカーの部長職で年収は約800万円。数ヶ月前にヘッドハンティングを受け、年収1,000万円を超える新しい職場に転職が決まったばかり。「いよいよ俺も年収が大台に乗ったぞ!」と、喜びと少しの誇らしさを胸に帰宅し、妻に報告したその日、予想もしない言葉が返ってきたのです。
「娘が18歳になったら離婚したい。もう、ずっと前から決めていたの」
耳を疑いました。裕子さんは淡々とした口調で、まるで以前から何度も練習していたかのように話し始めたといいます。
「自分だけ取り残されていく感覚」に苦しんでいた妻
裕子さんは現在、中堅の化粧品メーカー勤めで、年収は約500万円。大学時代からキャリア志向が強く、結婚当初も「仕事は続けたい」と話していました。
しかし、出産後は産休をとったあと、時短勤務を余儀なくされ、同期たちが昇進していく中、自分だけが取り残されていく感覚に苦しんだといいます。
「夫は結婚前と生活をほぼ変えることなく、キャリアを積んでいく。私は常に仕事と家庭の両立を求められる。それが仕方ないことだと分かっていても、心のどこかで不公平に感じてしまった」
学生時代、裕子さんはバックパッカーとして世界を旅していました。異国の文化や人との出会いを何よりの糧にしていたのに、結婚後は夫が海外旅行を好まないこともあり、次第にその楽しみも手放していったそうです。
決定的だったのは、娘が生まれた直後のこと。もともと実家とは疎遠で頼れる人もいない中で、夫は仕事に追われ、ほぼワンオペ状態の日々が続く毎日。
「休みの日に、ほんの数時間でもいいから子どもを見ていてほしいとお願いして出かけたことがあったんです。ずっと美容院に行けていなかったので。でも、出先で夫から『娘が泣いてる! どうしたらいい?』と電話がかかってきて……あのときは、本当に絶望的な気持ちになりました」と裕子さんは振り返ります。
「今は子どもも大きくなり、私もフルタイムで働いています。でも、学校行事への参加や子育てのあれこれ、日々の家事はほとんど私の担当です。遅く帰ってきた夫が、シンクにグラスや食器を置きっぱなしにしているのを見るたびに、『せめてそれをさっと洗って食洗機に入れてくれるだけでも助かるのに』と思ってしまうんです。そんな小さなことの積み重ねで、『一緒に暮らす意味って、あるんだろうか?』と考えるようになってしまいました。娘でさえ自分が使った食器は食洗機に入れるのに……。」
「私だって残業を思い切りしたいの!」妻の胸の内
妻からの突然の告白に、素直さんは言葉を失いました。
「仕事だって家族のために頑張ってきたのに……。正直、“何を今さら”という気持ちもありました」
そんな素直さんの心を見透かすように、裕子さんは静かに口を開きました。
「あなたが頑張っているのは分かってる。でも、私ももう一度、自分の人生をやり直したいの。昔お世話になっていた上司から『うちで働かないか?』って声をかけてもらっていて……私もあなたみたいに、残業時間を気にせず思いきり働いてみたいの」
そう言ったあと、裕子さんの目に涙がにじみました。
「あなたは、電車の時間を気にしながら働いたことある? この電車を逃したらお迎えに間に合わないって思って、駅まで走ったことは? 同僚に『飲みに行かない?』って誘われても、『また今度!』って笑って断ったこと、ある?」
途切れ途切れの言葉は、やがて嗚咽に変わりました。積み重ねてきた日々の小さな我慢が、ようやくあふれ出した瞬間でした。
夫婦としての愛情は確かにある。けれど「妻」「母」という役割をいったん下ろして、ひとりの人間として生き直したい――。それが裕子さんの本音でした。
