「俺はヒラでいいんだ」…信念だった“マイペース主義”
「昔から“出世争い”ってものに違和感があって。誰かを押しのけて役職を得ても、ストレスが増えるだけじゃないですか」
そう話すのは、大手メーカーに新卒入社し、現在50歳を迎えた岸本悠介さん(仮名)。同期の多くが課長、部長と昇進するなか、彼はあえて役職のあるポジションを断り続け、平社員として働き続けてきました。
「当時の上司にも“もったいない”と言われました。でも、自分は家族との時間や趣味の音楽を大事にしたかった。だから“ヒラのままで結構です”とはっきり言っていました」
岸本さんの収入は、20代後半から大きくは変わらず、賞与も最低ライン。年収はここ10年ほどで約480万円前後にとどまっていました。
そんな岸本さんのもとに届いたのが、50歳の誕生月に送られてきた「ねんきん定期便」でした。
「封を開けた瞬間、目を疑いました。“将来受け取れる年金額”が、月額13万4,000円と書かれていたんです。正直、こんなもんか…と、力が抜けました」
年金制度をある程度理解していた岸本さんは、「厚生年金に20年以上入っていれば、もう少しもらえると思っていた」といいます。
「同期のひとりは、今や部長クラス。聞いたら、“俺は月17万くらい”と笑っていました。たった数万円の差だけど、いざ数字を突きつけられると、精神的ダメージがデカいんです。“大企業に20年以上勤めてこれか…”って、妙に現実を見せつけられた感じでした」
これまで真面目に働いてきた自負があった分、その金額はあまりに小さく感じたといいます。
「老後って年金が柱じゃないですか。なのに、これで生活しろって…どうやって?」
岸本さんの年金が少ない理由は、制度上明確です。
厚生年金の受給額は、主に以下の要素によって決まります。
●加入期間の長さ
●標準報酬月額(≒収入)
●賞与額を含めた保険料の総額
つまり、同じ会社で長く働いていても、役職に就かず、昇給もなければ、納付保険料も伸びません。結果的に、老後にもらえる年金額が小さくなるのです。
2025年時点での厚生労働省の統計では、国民年金(基礎年金)の満額は月額約6.7万円。これに厚生年金部分が加算されるため、会社員は概ね月14万〜18万円の年金を受け取る人が多いとされますが、岸本さんのように収入の伸びが少ないケースでは、大幅に下回ることもあるのです。
