(※画像はイメージです/PIXTA)

金は長らく個人や各国政府により貴金属として評価され、今日も使用されている最も古い交換手段および価値保存手段の一つです。世界市場において、金は米ドル建てで取引されるため、金と米ドルの間にはしばしば逆相関の関係が生じます。日本など米国外の投資家にとっては、それが為替リスクをもたらします。従って、日本の投資家による金投資のリターンは、米ドル建ての金価格と米ドル・円為替レートの変動という2つの主要因に影響されます。そこで今回は、2000年以降の25年分のデータをもとに、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント社のゴールドストラテジストであるアーロン・チャン氏が、「金と円」の関係とヘッジの有効性について考察します。

リターン重視の投資家にとっては、ヘッジはマストではない

過去のデータによれば、長期的なリターンの最大化を重視する投資家にとっては、ヘッジは必ずしも必要ではないことが示唆されています。

 

2000年以降、持続的な円安と、日本の低金利環境によりヘッジコストがおおむねマイナス(月平均-0.19%)だったことを背景に、ヘッジなしの金投資の月次リターンがヘッジありを平均0.31%上回っています※10

 

さらに、金と円はともにセーフヘイブン資産とみなされているため同方向に動くことが多く、これによりヘッジなしの投資家は、ある程度の自然な分散効果が得られ、積極的な為替リスク管理の必要性が低減されます。

 

ただし、リスク管理(特に急激な円高への備え)を優先する投資家にとってはヘッジが有益であることはわかっています。もっとも損害が大きいレジームは「金:安(-)と円:高(-)」(レジーム4)であり、その間のヘッジなしの平均月次リターンは4.80%の下落、それに対しヘッジありのポジションでは3.47%の下落となっています※11

円安が続くかどうかが、投資判断のカギに

今後に向けての重要な考慮事項は、円安が持続するかどうかです。日米の金利差が縮小した場合は円高に転じる可能性があり、日本の投資家にとって金価格上昇による利益が減少、もしくは帳消しにする可能性すらあります。

 

そうしたシナリオでは、ヘッジありの配分がポートフォリオ分散効果としての金の役割を確保するのに役立つでしょう。逆に、円安が持続する場合は、ヘッジなしを維持することで期待リターンが高まる可能性がありますが、ボラティリティも増大すると思われます。

 

円相場の先行きに確信が持てない投資家にとっては、バランスのとれた配分戦略が賢明な選択かもしれません。

 

円建てのヘッジあり金に50%、円建てのヘッジなし金に50%を配分することで、為替リスクを管理しつつ、円相場の変動による上振れの可能性を確保することができます。

 

この手法は分散効果をもたらし、極端な為替変動の影響を緩和します。

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。

 

 

アーロン・チャン(ゴールド・ストラテジスト)

 

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〈注釈〉
※1 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from January 1, 2000 to July 31, 2025.
※2 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from January 1, 2000 to July 31, 2025.
※3 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from January 1, 2000 to July 31, 2025.
※4 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from January 1, 2000 to July 31, 2025.
※5 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from October 1, 2008 to October 31, 2008.
※6 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from January 1, 2000 to July 31, 2025.
※7 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from January 1, 2000 to December 29, 2006.
※8 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from January 1, 2007 to December 31, 2019.
※9 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from January 1, 2020 to July 31, 2025.
※10 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from January 1, 2000 to July 31, 2025.
※11 Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management. Data from January 1, 2000 to July 31, 2025.

★1 出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、データ期間: 2000年1月1日~2025年7月31日、注記:307ヵ月の観測期間のうち、円相場が安定していたため、4つのいずれの相場局面にも該当しなかった月が1ヵ月ありました。したがって、棒グラフには合計306ヵ月が示されています。
★2 出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、データ期間:2000年1月1日~2025年7月31日、注記:円建て金価格(為替ヘッジなし)は(1)米ドル建ての金価格のリターンと(2)米ドル・円レートのリターンで形成されます。これに対して、円建て金価格(為替ヘッジあり)は(1)米ドル建ての金価格のリターンと(3)ヘッジコストで構成されています。一般的な指針として、為替ヘッジは円高局面ではプロテクションを提供する一方、円安時にはリターンを抑制する可能性があります。
★3 出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.、ストリート・インベストメント・マネジメント、データ期間:2000年1月1日~2025年7月31日

〈用語集〉
・中央銀行……国または国家連合のために、貨幣および信用の創造と分配を独立性をもって管理する金融機関。

・中央銀行金協定……第1次中央銀行金協定(CBGA-1)は、ワシントン金協定とも呼ばれ、1999年9月26日に欧州15ヵ国の中央銀行と欧州中央銀行(ECB)によって締結されました。

各国中銀による協調性を欠いた売却と金の貸出増加が価格下落を招く事態となり、同協定は金市場を安定化させることを目的としていました。

同協定では、通貨準備における金の役割が再確認され、公的部門の活動に制限が設けられました。署名国中央銀行による金の売却の総量は5年間で2,000トン(年間約400トン)を上限とし、金の貸出やデリバティブの利用を増加させないことで合意しました。

この措置は不確実性を軽減し、透明性を高め、現代の金市場ダイナミクスにおける転換点となりました。

同協定はその後、2004年、2009年、2014年と3回にわたり延長・更新されました。2019年に、ECBはこの20年続いた協定を延長しないことを発表し、金は依然として重要な準備資産だと指摘しました。

ECBと同協定に署名した21ヵ国の中央銀行は、大規模な金売却の計画はないことを確認し、中央銀行は10年近くにわたり金を買い越していると強調しました。
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