独り暮らしの父は淡々と「大丈夫だから」
もともと持病があった健一さんの母親は、7年前に死去。そしてその後、横浜の実家には父親がひとり、残されることになりました。
「実家を訪ねると、父は母がかわいがっていたインコに、子どもへ話しかけるようにいつも話しかけていました」
健一さんの父親は、単身赴任の経験もあり、ひと通りの家事はできるといいます。
「でも、高齢ですから心配でした。高齢者用のマンションへの入所を勧めましたが、やはり住み慣れた場所がいいようで…」
健一さんと弟の雄二さんは、以前より父親を気にかけ、電話をしたり、食べ物を送ったりしていました。しかし、父親からはいつも「大丈夫だから」「父さんより、家族のためにお金を使いなさい」という言葉が返ってきました。
「父はもともと淡々とした人で、電話で話しても様子の変化は感じられませんでした…」
3年顔を見なかった父は、面影もなく…
ある土曜日の夜、健一さんのスマホに見慣れない番号から着信がありました。出てみると、警察からでした。
「お父さんが自宅近くの公園の階段で転んでしまって。そばにいた方が110番通報されたんです。いま、〇〇区の〇〇病院に運ばれています。すぐ来てもらえますか?」
慌てた健一さんは、すぐ雄二さんに連絡を取り、父親が搬送された病院へと向かいました。
救急病棟のベッドに寝かされた父親の姿を見た健一さんと雄二さんは、思わず顔を見合わせました。面影がないほど痩せ、やつれ果てていたのです。
父親は、2人の息子の顔を見ると、かすれた声で「すまないなぁ、すまないなぁ」と繰り返しました。
最後に父親の顔を見たのは3年前。それだけの間に、容貌が変わるほど老け込んでしまったのでした。
「父は傷の手当のほか、頭のCTを撮るなどの処置を受けました。病院の先生からは〈体がかなり弱っている〉〈高齢なので、これで一気に体調が悪くなることもあり得る〉との説明がありました」
残念ながら医師の言葉は的中し、父親はケガをきっかけに急激に衰弱し、半月の入院の末に旅立ってしまいました。78歳でした。
