「この家、もういらないよ」母の思わぬ一言
「お母さん、これからどこに住みたい?」
都内で働く会社員の村上恵子さん(仮名・52歳)は、実家の片づけをしていたとき、ふとそう尋ねました。父が亡くなって2年。築45年の実家には、80歳を迎えた母が一人で暮らしていました。
「もう、一人じゃ不安。あんたのところに近いところがいいなぁ」
思っていた以上に素直な返事に、恵子さんは驚いたといいます。そして数日後、母がぽつりとこう言ったのです。
「この家、売っていいよ。もう十分住んだし、誰も戻らないんでしょ?」
「本当に売っていいの?」と何度も確認しながらも、恵子さんの心には少しずつ“手放す覚悟”が芽生えていきました。
3人きょうだいのうち、誰も実家近くには住んでいません。年に数回帰省するだけで、リフォームして住むには費用がかかりすぎる。草取りや雨漏りの修繕など、今後の管理にも手が回らない。
「最初は“もったいない”“寂しい”という気持ちもありました。でも、母が前向きだったことと、“今ならまだ買い手がつくかもしれない”という不動産会社の話が背中を押してくれました」
実家は、最寄り駅から徒歩15分の住宅街にある木造戸建て。建物は古く、買い手が見つかるか不安でしたが、地元の不動産業者から「更地にして売却すれば、需要はありますよ」と言われたといいます。
「解体費用はかかるけれど、放っておいて資産価値が下がるより、今のうちに売った方がいいと考えました」
結果的に、建物解体後、土地として約1,800万円で売却が決定。そこから諸経費と解体費用を差し引いても、母の老後資金として十分な額が手元に残ったといいます。
