潜入調査で脱税の端緒を掴む
調査官「裏帳簿は出してこないでしょうね」
筆者 「説得次第だが出さないだろう。調査額は相手の目を見て、息遣いを感じて、額に滴る汗を見ながら決めていいよ。どこで折り合いをつけるかが勝負だ」
調査官「妥当な線はどのくらいですか?」
筆者 「それを決めるのが調査官だ。ところで、ここ数週間の売上は確認しているの?」
調査官「申告額より10%程度良いみたいです。先日、再訪問し、昨日までの売上を見せるよう迫ったら面食らっていました。まさか、今年の売上を再提示させられるとは思っていなかったようです」
筆者 「着手後の商況から判断して、年間500~600万円の売上除外がありそうだね。3年間で900万円の修正申告ならハンコウを押すよ」
調査の最終局面。脱税の証拠を突きつけ「経常的に売上を抜いている」と詰め寄ると、ターゲットは「勝手に課税してくれ」と開き直った。
調査の着手前に2回の潜入調査を実施したのだが、1回目の潜入調査は警戒されていたようで売上に計上されていた。2回目は計上されていない。しかしながら、潜入調査をしたのは今年になってから。そのため、売上を修正すれば過少申告にはならない。
威力を発揮したのは『インフォメーション』。現金商売の切り札だ。税務職員は自主的に自腹で調査資料を収集している。
たとえば、家族や同級生との私的な飲食費の支払い時、不明瞭な料金やレジを打っていないなど売上に疑問を持つ場合がある。その時に作成するのが『インフォメーション』。店名、支払年月日、支払額を記載して資料化する。
あくまでも私的な飲食なので領収書をもらうこともなく、警戒されることはない。トクチョウ班の潜入調査でも「効果測定のために領収書はもらっていない」と記載すれば、領収書がなくても捜査費として認められるのだが、潜入調査で警戒されないように情報収集するには、それなりの経験を積まなければならない。
