税務調査の対象選定とその実務
税務調査の対象となる事案の選定は、担当統括官の専権事項です。しかし、選定は極めて難しく、自信を持って調査官に交付できる案件は意外に少ないのが現実です。昨今ではAI選定などともてはやされていますが、過去の脱税手法から学ぶAIでは無申告者を探し出すことはできません。
また、事業者は業種別に付された番号ごとに区分されているのですが、そもそも事業者区分があいまいなため、売上が同規模の同業者を抽出しても、多角化経営などによって同業者とは言い難い事業者が抽出されてきます。
多角化の例として、在宅医療と介護施設の複合経営や鮮魚店のすし店経営、卸売り業者が一般顧客にも商品を売るケースなど、数え上げればきりがありませんが、国税の業種区分はこの状況に対応できていません。
そんな状況下で申告データや調査事例をAIに読み込ませたところで、調査選定に使えるようなデータは出てきません。現場からは、「AI選定なんて使ったことないよ。そもそも業種区分の入力が間違っているケースが多く、使い物にならない」との声が聞こえてきます。
それでも年間予定件数を達成するため、国税当局はさまざまな角度から調査対象を抽出しています。
重点業種の選定
重点業種とは、過去の調査結果や現状の経済状況を踏まえ、好況と判断される業種を中心に調査するものです。たとえば、パチンコ店やピンク産業は不況に強く、常に調査の上位にランクされます。
また、個人事業者のなかでは医師や歯科医、弁護士などの士業が注目されます。彼らは所得が高いため、申告漏れがあれば累進課税により税負担が大きく跳ね上がるため、継続的に監視されるのです。
経済状況に応じて選定されるわかりやすい例として「くず鉄業」があります。北京オリンピックに伴う建設ラッシュで鉄の需要が増加し、価格が急騰した際、盗難事件も多発しました。また、金やプラチナの法定調書提出義務も、重点調査による申告漏れ発見が契機でした。
このように、経済動向を分析し、儲かっている業種をマークするよう国税局から指示があり、その業種から調査対象者を絞り込みます。弁護士や司法書士など、過払い金返還で業界が賑わった事例も重点業種の成功例です。
