「アイスクリームの売上」と「水難事故の発生率」に相関関係!?…統計データの読み解きに不可欠な「洞察力」とは?【経済評論家が解説】

「アイスクリームの売上」と「水難事故の発生率」に相関関係!?…統計データの読み解きに不可欠な「洞察力」とは?【経済評論家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

統計データは非常に興味深く有益なもので、複数のデータを比較することで、新たな気付きや視点が得られることも珍しくありません。ところが、安易な読み方から「トンデモ推論」を編み出してしまうこともあるため、十分な注意が必要です。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

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「アイスクリームが売れる日は、水難事故が多発する」

アイスクリームが売れる日は、水難事故が多いといわれています。それならば、アイスクリームの販売を禁止すればいいのでしょうか? そんなことはあり得ませんね。アイスクリームの売上と水難事故数が似たような動きをするのは、「気温が高いとアイスクリームが売れるとともに、水難事故が増える」からです。水難事故を減らすには、原因である気温を押し下げる必要があるのです(笑)。もちろん、安全対策の強化も重要でしょうが。

 

A氏とB氏が似ているとしても、A氏がB氏の親とは限りません。子どもかもしれないし、両氏が兄弟なのかもしれないし、偶然似ている他人かもしれません。「似ている」ということだけから因果関係を考えるのは危険なのです。

「警察官が多い街は犯罪が多い」

警察官が多い街は犯罪が多い、というのは、多分事実でしょう。でも、警察官を減らせば犯罪が減るわけではないということは、財政再建論者にも理解してほしいですね。

 

犯罪が多い街は積極的に警察官を雇いますが、犯罪が少ない街は同じ予算で公園を作ります。だから警察官が多い街は犯罪が多いのです。犯罪数が親で、警察官数は子なのです。

 

もう1つ、理由があります。人口の多い街は犯罪が多く、大きな街は警察官が多いので、人口が親で警察官数と犯罪数は兄弟だ、というわけです。もっとも、これについては、人口1,000人あたりの警察官数と人口1,000人あたりの犯罪数を比較することで、議論を整理することが可能です。

株価が景気の先行指標といわれる理由

株価が上がるとしばらくして景気がよくなる、といわれています。しかし、長い間景気の予想屋をやっていた筆者としては、「株価が上がることが景気がよくなる原因だ」とは考えにくいのです。

 

そうだとすれば、「人々が景気回復を予想すると人々が株を買うので株価が上がる、そのあとで予想が当たって景気が良くなる」ということなのでしょう。順番としては、株価が景気を押し上げたように見えるけれど、実際には景気が親で株価が子だ、ということですね。「親より先に子が生まれる」ということが因果関係の世界では起こり得るのです。

「病院が少ない街の人は長生き」

「病院が多い街は入院が多く、病院が少ない街の人は長生きする」ということがあるとします。考えられる因果関係は何でしょうか?

 

「病院が少ないと、入院できない患者が多いので、病院が多い街ほど入院が多い」と考える人がいるかもしれませんが、それはおそらく違います。そういうことが起きているならば、病院が少ない街の人が長生きをすることが説明できないからです。

 

「病院が多い街の医師は、ベッドに空きが出ないように、入院が必要ない軽症の患者も入院させる」ということは、理屈としては考えられます。「供給が需要を作り出す」という言葉は、どこかで聞いたような気がしますが(笑)。もっとも、そのような不埒な医師は多くないでしょうから、これも重要な要因ではなさそうです。

 

おそらく「病院が少ない街から病弱な人が出て行ってしまい、健康な人だけが残っているから住民が長生きなのだ」ということなのでしょう。そうだとすれば、「病院の削減は財政再建と住民の長生きの一石二鳥だ」などということはなさそうです。

 

では「日本はがんで亡くなる人が多い。がんの治療が遅れているからだ」というのはどうでしょう? 筆者は医療には詳しくありませんが、日本のがん治療が悪いのではなく、日本の医療が優れていてがん以外の病気がほとんど治ってしまうから…ということもありそうです。皆ががんになるまで生きているから、がんで死ぬ人が多い、というわけです。

「財政赤字が減った国ほど経済成長率が高い」

世界各国のデータを用いて、財政赤字の減り方と経済成長率を比較すると、両者は似たような動きをするかもしれません。そうだとすれば、筆者は「経済成長率が高いと税収が増えるから、財政赤字が減る」と考えます。

 

しかし、別の考え方も可能です。「財政赤字を削減すると、政府が借金しなくてよくなるので金利が下がる。すると民間企業の設備投資が増えて、経済成長率が上がる」というのです。どの程度の効果があるのかは、積極財政論者と緊縮財政論者で意見の相違がありそうですが、なにがしかの効果はあるのでしょう。そうだとすると、双方が原因であり、かつ結果でもある、ということになります。

 

以下は余談ですが、そうだとしても、財政再建論者が「日本も、成長率を高めるために緊縮財政政策を採用すべき」といいだせば、筆者は反対します。金利が高い国であれば、金利が下がる効果が期待できますが、日本はすでに金利が低いので、緊縮財政で金利が下がることは期待できないからです。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

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